Treasure Chest

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10年後。 ワンピースの腰のリボンをキュキュッと結び、形を整えた。 「はい、できた」 「ありがとう、ママ!」 「わあ、似合う!海來、お姫様みたいよ!」 「ほんまやー、めっちゃ可愛いで、海來!」 「うん!ありがとう、パパ!」 「パパ、僕にもネクタイ結んでー」 「よっしゃー、海斗はいつも可愛いけど、今日はかっこ良くしたるからな、おいで!」 今日は父の還暦祝い。両親の思い出のホテルで食事会をすることになっている。私は久しぶりにヒールのある靴と丈の長いスカートを穿いた。 海來に着せたのはもちろん、祖母がプレゼントしてくれた、あのワンピース。母が大切にケアしながらとっておいてくれたおかげで、シミひとつ無かった。 「来月から、シンガポールか・・・。この家とも、少しの間バイバイだね」 「里美、本当に、ええの?父さんと鈴ちゃん、なんも言わんけど絶対寂しがるやろ」 「大丈夫。お母さん、私たちに会いに来るって名目でお父さんとの旅行楽しみにしてるみたいだから。この前実家帰ったら、ガイドブック何冊もあった」 「・・・そっか」 しー君と結婚して、私は同じ会社の別の階の部署に異動になった。産休、育休を経て復職したが、来月からのしー君の転勤に合わせて、退社を決意した。いろんなことに挑戦してみようと思った。 「ほんじゃ、車出してくるね」 「あ、待って。しー君、スマホ鳴ってる」 「ん?誰?」 「・・・海惺君だ!」 「ああ、出といて。で、なんか言われたら明日の夜会うんやからそん時聞くわー言うといて」 「分かった」 2人の子供たちを連れて、マンションを出ると車が目の前にあった。 「海惺、なんて?」 「なんかね、シンガポールで買って送って欲しい食べ物リスト、LINEで送ったから見てって」 「・・・どうせ酒のツマミやろ」 そう言いながら、しー君は笑顔だった。 「ねえ、お爺ちゃんへの花束、何色にしたの?」 「プレゼントは、僕から渡すね!」 「あ、来週父さんと釣りやった。クーラーボックス出しとかな」 「ああ、もうこっちでは使わないと思って奥しまっちゃったもんね、出しとく。・・・私も、久しぶりに行こうかな」 「え、里美、アオムシ触れんの?あのウヨウヨしたやつ」 「それは無理、しー君お願い・・・」 「私も行きたい!」 「え、じゃあ僕も!」 「おお、みんなで行こか。おじいちゃん喜ぶでー」 家族の笑いに包まれながら、私たちは両親の待つホテルへと向かった。
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