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オリナスは、「彼は」とアルタイルを見やって、説明を続けた。
「どの世界にも属していません。ここは彼の存在によって形作られた空間で、恒常的に不安定な状態です。あなたと私、ふたりの『物語を織りなす者』が同時に存在していられるのもそのためです」
「オリナス、……僕は、謝らなくてはいけない」
「その必要はありませんよ、ヴェガ」
彼女はこちらを見上げて、口の端をこころもち上げた。
「仕方ないのです。ああしなければ、世界が壊れていました」
オリナスによると、ここでの邂逅には別の意味があるという。
「私たちの世界へ足を運んでいただけませんか、ヴェガ」
僕の口は、ぽかんと開いた。さぞ間抜けな顔になったはずだ。
「この場所からなら、それが可能です」
「しょ……招待してくれるなら。喜んで」
是非とも行ってみたい。空想の中に入り込める人間など、僕のほかに誰がいるだろうか。断る理由などない。異世界での体験は、将来きっと役立つはずだ。
「あなたご自身の登場人物設定を決めてください」
「どういうこと? 今のままじゃだめなの」
「私たちの世界を守るため、あなたの『物語を織りなす者』の力は封じさせていただきます」
過剰な力が世界を崩壊させるというのは、僕自身が作った設定だった。
「吟遊詩人がいい。実際に戦う職業は無理だから」
「今は怪物のいない世界ですよ。……でも万が一のことがないよう、私の能力で『不死』という設定にしておきます」
充分な安全装置だ。もはや不安のかけらもない。僕は鷹揚にうなずいてみせた。
「皆さん喜びます。造物主の訪れを心待ちにしているのですよ」
オリナスは目を細めた。そうして右腕を目いっぱい伸ばしてぐるりと円を描き、白夢幻世界へつづく扉を開いた。
僕は喜びと期待に胸を膨らませつつ、足を踏み出して境界を越えた。
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