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群衆から、声が上がった。
「ほんとうに作者さまか」
顔に見覚えがあった。初めて小鬼が現れた日、殺されかけたところを勇者に助けられた、名もない村人だ。
僕はやけくそで声を張り上げた。
「マロード・ヴェガ。創造主だけど、今は吟遊詩人で……」
風を切る音が耳を打った。次の瞬間、側頭部に強い衝撃があり、僕は反射的に目を閉じた。まぶたの裏、暗闇のそこここで赤い色が渦を巻いた。
鼻の奥に血の匂いが満ち満ちた。
「どうかしました?」
耳鳴りの向こうから、オリナスの声がする。
「石をぶつけられた」
「あなた死なないから、問題ないでしょう」
驚いて目を開くと、少女はもう、背を向けていた。
「私たちの歓迎を、十分に楽しんでください」
鼻腔を満たす鉄の匂いが強くなった。
「待て、これのどこが歓迎だ」
近づいて彼女を捕らえようとした。だがこぶし大の石が次々と飛来して、僕を阻んだ。
「自分のしたことが分からない? 平和だった白夢幻世界に魔物だの戦争だのを持ち込んで、人も生き物もたくさん殺して、『創造主』を気取って……」
彼女が話す間も、必殺の勢いで投じられた石が四方八方から飛んできて、次々と僕だけに当たった。おかしい、投石はすべて不自然に彼女を避けている。
「君には……そうか、当たるはずがないな」
「あなたにもらった力のおかげ」
オリナスは艶やかな微笑みを見せた。
「私、久しぶりに心から笑えた」
僕のせいで、彼女は父を追放する役目をさせられた。作者を深く恨んで当然だ。
「やっと分かった。僕は復讐のために招かれたんだな」
僕は白日夢で見た世界を、自分の創造した「空想の世界」と決めつけ、作中であたら生命を奪ってきた。この広場に集った人々、いやこの世界の生き物すべてが僕のせいで悩み苦しみ、また実際に死にかけた。愛する対象を失った者も多いだろう。
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