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半信半疑のまま取り掛かることにした。僕が「白夢幻世界」と名付けた世界を想像する際に、「魔王出ろ、小鬼来い、怪物出てこい」と念じ続けてみた。
最初のうちはなんの変化も生じなかった。だがある日、事件が起きた。それまで平和だった人里に、ゴブリンの一団が出現したのだ。
村の子供が危うくさらわれかけた。それを防いだのは、僕が「アルタイル」と呼んでいる、短編で何度か主人公にした青年だった。僕の空想世界に悪が入り込み、勇者が誕生した瞬間だ。
「ヴェガ先生、ついにやりましたね」
編集が言うとおり、勇者アルタイルを主人公にして、「世界を魔王の侵略から救う」というストーリーの、「闇の魔王編」三部作は大ヒットした。これまで僕の作品になかった勧善懲悪で、壮大な展開を持つ剣と魔法の物語が、多くの読者に支持されているしっかりとした世界観に緻密な描写をもって表現されていたからだ。
僕は空想世界にアクセスするだけではなく、意思の力で干渉して、それまで見たことの描写でしかなかった作品を自身の創造物へと昇華させることに成功した。そうして「闇の魔王編」につづく「魔の新大陸編」、「いにしへの神々編」を経て、発行部数は着実に伸びていった。
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