Brand New World

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 僕は半年がかりで次回作の準備に取り掛かった。今度はまず設定を考え、プロットを立ててから空想する、という手順をきちんと踏んだ。  プライベートで付き合っている女性もいて、「そのうち僕もプロポーズなんてするのかなあ」なんて思いが芽生え始めていたから、どうしても職業作家として地位を確立したい思いがつよくあった。  出版社が、いや全国の愛読者が、そんな僕に「待った」をかけた。 「ヴェガ先生! 新作と並行で、白夢幻世界の外伝(スピン・オフ)を書いてください」  僕は突っぱねた。 「お世話になっている編集者(あなた)の頼みでも、こればかりは聞けません」  実のところ、次回作の空想世界が「無」の中からもやもやと形作られようとしていた時分で、集中が必要だった。邪魔されたくなかった。 「あれは、『続けるのに無理がある』と、そちらが言うから終わらせた世界じゃないですか。それに僕はふたつ同時に描けるほど器用じゃありません」 「その後を知りたい! という声が想定外に多くて。短い後日譚(ごじつたん)でいいですから」  白熱しすぎて、やりとりが怒声に変わるほど激しい議論のあと、僕は折れた。 「分かりました。その代わり、新作は外伝を書き終わってからです。それと長編一本、これで終わりにします。それ以上は無理ですから」  どうせしばらくしたら、「もう一本だけ、お願いします」と、言い出すのだろう。なだめすかしたり、脅したりと様々な手を使ってくるはずだ。  僕はうんざりして、それならばどうにも続編が書けないように終わらせてやろうか、と胸の内に暗い炎をともした。
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