Tales-Weavers

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 僕が「終わらせる」ことを目的に書き上げたストーリーは、以下のとおりだ。 --------------------  勇者が異相世界の冒険から戻って十二年、世界はすっかり元どおりの平和と安寧(あんねい)を取り戻していた。アルタイルとダナの娘・オリナスは間もなく十歳、特別な才能はないものの母に似て美しく聡明で、父に似て勇気ある少女に成長していた。  ある日、彼女が住む家の近くに小鬼(ゴブリン)の一群が現れた。勇者とその仲間が出向くまでもなく、幾多の危難を乗り越えてきた人々の手によって怪物どもは排除された。だが彼女の父、アルタイルは胸騒ぎを覚える。  嫌な予感は的中した。これまでに倒してきた邪悪な魔王や古の神々などの強敵が復活したとの報告が相次ぎ、オリナスの父は東奔西走の毎日を送ることになった。不思議なことに、よみがえった邪悪な存在はなんど倒しても復活して、挑んでくるのだった。  物語の中盤、転換点において、父と仲間たちが不在の間にオリナスがついに覚醒し、強力な魔王を退ける。彼女は物語を創る力(テイルズ・ウィーバー)で因果の糸を織り変えて、魔王のさらなる復活を妨げただけでなく、「存在していた」という事実をこの世界から消してしまったのだ。  ところが事態は解決せず、より悪化の一途をたどった。  異変が起き始めた原因、それは強大になりすぎた勇者アルタイル、その人だ。かつての邪悪な存在の復活は、人智およばぬ「癒し手」の働きであり、失われた均衡(バランス)を正常に戻そうとする補正作用の影響であった。  強き善の力だけが存在するために宇宙は傾き、歪みに生じた亀裂からは負のエネルギーが放出された。抑制なき混沌(エントロピー)が増大しつつあり、世界は崩壊の危機に瀕していた。  冒険の末、オリナスと父は世界の均衡を取り戻す(すべ)を見いだした。それは、「勇者アルタイルを消す」という、実行不可能な方法だった。この世界の特異点(シンギュラリティ)である彼は事実上無敵の存在であり、対抗しうる力が存在しないからだ。  物語は平和が戻ってきたシーンで終わる。だがそれはオリナスの能力によって、世界の仕組みと人々の記憶を書き換えることで成し遂げられた、痛みを伴う決着だった。残酷なことに、少女は自分の手で父親の記憶を人々から消去し、白夢幻世界の外に追放する決断をしなければならなかった。  ひとりの勇者が姿を消し、彼を覚えているたったひとりの少女を除く全ての生き物に、平凡な日常が訪れた。 --------------------  こうして僕は白夢幻世界につながる扉を永遠に閉じた。それは世界を丸ごと消去するのと同じことだった。
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