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『何かあったんですか?』
わざとらしく
驚いた様子で岩崎がブースに帰ってきた
『店長!
今までどこに行ってたんですか!
変な人が入ってきて
高橋さんに因縁をふっかけて大変だったんですから!』
村上が
これまた大袈裟に岩崎に報告する
『えっ!?
それは大変だったね
高橋さん、大丈夫?』
振り向きながら美月に声をかけた岩崎の目は
楽しそうに笑っていた…
やっぱり…
この男が仕掛けたんだ…
『大丈夫なわけないじゃないですか!
この年頃の娘に何て事をするのか
ちょうど…店長と同じ年代に見受けましたが…
店長の知り合いでしょ?』
村上が、岩崎ににじり寄る…
『な…何言ってんだよ!
知らないよ!!』
岩崎の声が突然大きくなる
『さっき…私…お手洗いに行ったんですよ…
ほら…ここのお手洗いって男性用と女性用がちょうど向い合わせじゃないですか
私…見たのよ
店長と…さっきの男が話してるの…』
え?…
『あ…あぁ…
トイレで話しかけられたんだ
和食レストランはどのエレベーターで行くんだって…』
岩崎がシドロモドロで答える
『あぁ…そうですか…
店長…
その男でした!』
村上が言うと
『それがわかってたら
取っ捕まえてやったのに…』
岩崎が力なく返事をすると
『嫌だ店長…
何もしないうちから取っ捕まえられませんよ
まるで…何かするのをわかってたみたい』
村上はそう言うと
ガハハと大声で笑うと
岩崎の肩を2度…バンバンと叩くと
『さ!
店長!頑張りましょうね!
美味しいコーヒーを
また飲みたくなるようなコーヒーを飲んでいただきましょ!』
そう言うと
クルリと踵をかえして自分の持ち場に戻りはじめた
すれ違いざまに
『村上さん…
いつトイレに行ったんですか?』
と美月が尋ねると
『行ってないよ』
と小声でウインクをしながら囁いた
『女…プラス…おばちゃんの勘よ』
そう言うと颯爽と自分の持ち場へと戻っていった
『もうひとつ…付け加えると…』
突然
美月の耳元で貴史の声がした
驚いて振り向くと
すぐ後ろに貴史が立っていた…
驚いて後ずさりする美月に
『うちのトイレは…
いくら向い合わせだからと言って
中に誰がいるなんて絶対に見えないから…』
クスクスと笑いながら貴史が言う
『嘘だってわかってたんですか?』
美月が言うと
『もし見えたんなら
うちの構造上の欠陥になるけど
ちょっと…黙っててみようかなと…』
悪戯っ子のような目で美月を見つめながら
楽しそうに話す貴史は
仕事の時の様子とは違って親しみやすかった…
『わざと黙ってたんですね…』
美月が言うと
貴史は楽しそうに
クックと笑いを噛み殺しながら
『うん』
と答えるのがやっとだった…
『それ…性格悪いですよ…』
美月が突っ込むと
『み…認める…』
そう言うと
広間のカーテンに隠れてヒーヒーと笑っていた
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