手品師

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 その頃の夏祭りといえば、どんな小さなお祭りでも手品師の一人や二人いたものだった。  ハトや万国旗を出すのは今と変わらない、刀を飲み込んでみせたり、大きなコマを回して自在に操ったり、そうだ……幻灯機、マジック・ランタンというものは知っているかい? 今では、見なくなったね。  子どもの手に収まるくらいの小さな水鉄砲を片手に、近所の女の子と見物に出かけたんだ。浴衣を着せてもらったその子は……もう、名前も覚えていないな、はしゃいだようにどんどん進んでいった。氏神様の境内には、隣町からだって人がやってきて、それはもうにぎやかだった。  隅の方に子どもたちの輪ができていた。キャベツで目一杯にかさ増しされた焼きそばを頬張りながら、その輪に加わってみると、手品師が見せ物をやるところだった。なにやら箱のような装置をいじくっていて、まわりの子どもたちが早く早くと急かしてみても、手品師は穏やかに微笑みながらのんびりと準備を進めた。  焼きそばの残りを食べながら、待っていた。腹が満たされて眠たくもなってきた。女の子も浴衣の帯を退屈そうにいじり始め、なにか別のものを見に行こうと耳打ちしてくる。  ふいに、何の前触れもなく、光る絵が目の前に現れた。騒いでいた子どもたちはぴたっと静まり、手品師は口上を述べた。  小さなガラス絵に光を当てて、白壁に透かして映していたんだ。だけどそんな仕組みを子どもたちはわからないから、ただ不思議で、目をうばわれた。  物語が始まった。猫やカエル、カラスを引き連れた少年が出てくる冒険活劇だった。彼らは神様に会いに行くんだそうだ。物語は終盤にさしかかり、彼らの前には夢のように美しい花畑が現れた。色とりどりの光と影に子どもたちは夢中になったもんさ。  と、年老いた手品師はおもむろに立ち上がり、僕たちを見渡した。それから、  ワン、トゥー  安っぽいステッキを振ると、先端に花を咲かせてみせた。つくりものの花だってことは、僕にだってわかった。  ねえ、そんな子どもだましより、わたしも光る絵が見たい、と僕の隣で大人しく体育座りをしていた女の子が言った。  周りの子どもたちも口々に賛同するので、彼は苦笑いを浮かべた。
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