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 まず市場全体を活性化する為に……  ガタガタ。  金融緩和で潤沢な資金を……  ミシミシ。  中途半端はいけません。グローバルな視点から、未来志向のステラテジーこそ……  ゴットン、ミシミシ、ガ~タガタ。  うん、けっこ~、リズミカルっす。  もうすぐ番組が終るって頃、台所との間仕切りがス~ッと開いて、ママがボクとパパにお茶を持って来た。  変な緊張感あるけど、これも、いつもの習慣なのかな?  ママの顔はまだ怖いままで、口もきかず、コーヒーカップをパパの前へ置く。 「なぁ、悪かった。機嫌、直せよ」  上目づかいにママを見て、パパはボソリと呟いた。  見返すママの目はドライアイスの冷たさだけど、それでも一歩前進だね。朝ごはんの時は、パパを見向きもしなかったから。 「もういい加減、信じてくれないかなぁ。お前が思っている様な事は、天地神明に誓って無い」 「あなた、子供のいる前でする話じゃないでしょ?」  ママはそう言い、もう一度、パパをきつ~く睨んで、又、台所へ戻っていく。  カーテンが閉まって、一分くらい静かな時間が過ぎて、思い出したみたいにミシンの音がしたよ。  でも、もう力任せの荒っぽい音じゃないんだ。ガタッ!じゃなくて、カタカタと……普通のベダルの音になってる。 「ねぇ、これがギシキって奴なの?」  ボクが訊ねると、パパはふっと溜息をつき、ソファに深く沈みこんだ。パパはパパなりに緊張していたみたい。 「うん……正確に言うと、きっかけかな」 「きっかけ?」 「或いはガス抜き」 「ガス?」  イヤ、意味不明なんですけど。  何を言っているのか、ワケわかんなくなって、ボクも溜息をついてみる。  真似されたパパは苦笑いし、間仕切りのカーテンを見た。 「時々、ああやって煮つまりそうな心を爆発させてやらんと」 「え?」 「ママって頑張り屋さんだろ? 自分の気持ち、胸の奥へしまい込むタイプの」 「よく、わかんないけど」 「昔からそうなんだ。結婚した頃、ストレスが溜まると自室にこもり、ずっとミシンを踏んでいた」 「へ~」 「そんな風にさせた俺が一番悪いんだけどな。あいつにも、あの人にも、詫びる言葉さえ見つからない」  今度は誰の事を言っているのか、訳ワカメ……  小さく首を横に振った後、パパはママがいれたコーヒーを口に含んで、思いっきり渋そうに顔を歪めた。  苦さは普段の二倍増し。ちょっとしたママのリベンジかもね、コレ。  それにしても、パパの何にキレて、ママはあんなに怒ってたんだろう?  それをボクが訊ねるより早く、パパの方から切り出した。 「時々な、ママは理由もなく、俺を疑う。この年になって、今更、俺が誰かと浮気なんかする筈ないのに」 「……はぁ?」 「昔、起きた事を繰り返して、今度は自分が捨てられる側に回るんじゃないかと、怖がってるんだよ」  重っ! 何か、空気重たい。  折角の日曜日なのに、いきなり変な話になって、ボク、シンボ~たまらんっす。 「ねぇ、パパ。シンミリ語っちゃってますけど、それってマジ、子供に聞かせる話じゃないよね?」  精一杯、怖い顔でボクが言うと、パパ、コーヒーを飲んだ時より苦い顔をした。 「いきなり過ぎるよ。何でそんな事、急に言い出すの?」 「それは……例えば、だな。もしもの話」 「もしも?」 「うん、もし、俺が」  パパの口はそこでポカンと開いたままになり、閉じるまで時間が掛かった。 「いや……良い」 「え?」 「悪ぃ。気にすんな」  パパ、作り笑いしてボクの肩をポンポン叩き、後は黙ったままでテレビを見ていた。  隣にいても、それ以上何も言わないから、ボク、自分の部屋に戻り、ゲームを始めたんだ。  その日の昼ごはんの時、ママの機嫌は少しだけ直っていて、晩ごはんになると、いつも通り明るく笑ってた。  ガス抜き、うまくいったのかな?  でも正直言って、ボク、ウザいっ!と思ったんだ。  パパの話を思い出すだけで、何かメチャクチャ、ムカついてきてさ。  反抗期って奴が始まりかけてたのかな?  ボク、それとなくパパを避けるようになった。  日曜の朝、一緒にジョギングするのも、偉そうな人が出るテレビを見たのも、それが最後です。  で、ボクが六年生になった今年の夏、同じ事したくても、もう絶対やれなくなっちゃったんだよ。  仕事中にパパ、心筋梗塞って病気で倒れて、その日の内に死んじゃった。  ボクとママが病院へ駆け付けた時には、顔に白い布が掛けてあって、指先に触るとヒンヤリした。  前よりもっと健康に気を使うようになって、パパ、とうとう禁煙まで始めたのにね。
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