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「別れようか。休みも合わない。デートもそんなにしない。大体毎日のメールと電話だけ。それって付き合う意味、ある?」
大好きだと思っていた彼に切り出された別れは突然だった。
残業が続き、疲れきった週末はデートどころではなくただ溜まった家事を片付けて、のんびりするだけ。
おまけに休日出勤で休みが合わないこともしばしば。彼が別れを切り出すのも無理からぬ話しだと思った。
泣きたいくらい悲しい。
辛い。
でも泣けないし、落ち込んでもいられない。
社会人だから。
仕事に責任があるから。
泣いてる間に仕事の一つや二つを片づけろ、と言う話だし。
大丈夫、失恋なんてよくある話。
元サヤなんて言葉もあるけれど、あれはお互いに戻りたいと思っている場合にだけ起こる奇跡。
どちらか一方が離れたいと思っている場合は起こり得ない。
そんな事を考えながら、重い足取りで会社に向かう。
一人で行きていくのだから。
食べていかねばならないから。
仕事を疎かにする訳には行かないんだ。
「茅野!」
通勤電車内で声をかけられて、反射的に振り向いた。
ニコニコ顔で立っていたのは、同い年くらいの男性。
「え、と?」
首を捻って考えても誰かが分からない。
「え? 分からないんだ。ひどいなぁ。俺、香取 学」
穏やかな微笑み。
香取 学?
記憶を全サーチ。
「あぁ! 中学校の? 香取くん?」
「そうそう」
「久しぶり、オレ、茅野のことすぐ分かったよ」
中学校のときから穏やかで、おっとりした香取くんの笑顔も変わっていない。
「ねぇねぇ、頼みがあるんだけど」
香取くんは、困ると眉毛がハの字になるクセがある。
今でもハの字になっている香取くんの眉毛に私は笑った。
「なに?」
「その、持ってる紙袋貰えない? 今日さ、資料を入れる袋持って来るの忘れちゃって。今コンビニでも紙袋置いてなくてさー。困ってたところに見つけた茅野。しかも紙袋を持っている! いやぁ、さすがはオレの女神!」
相変わらず訳分からんヤツ。
おまけに、やけに調子がいいな。
こんなヤツだった?
チャラい方向に育ってしまったんだろうか。
もっと品のいい子だと思っていたのだけれどな。
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