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ブ、ブブブブブブ。
バッグの中でスマホが振動している。
何かと思えばメッセージアプリからのメッセージ通知だった。
送り主は香取くん。
何事だろうと開くと、特大スタンプが飛び出てきた。
「おまえっ! やったな!!!」
ユーモラスに怒りマークをつけたねこキャラのスタンプだった。
思わず微笑む。
そして、持っていたねこキャラのスタンプを返信した。
「は?」
仕事終わり。
久しぶりに化粧直しなんかしちゃってる。
髪も整えて。
香取くんと家の最寄り駅で待ち合わせ。
胸のどこからか湧き上がるワクワク感。
そう、これはきっと久しぶりに同級生と話せるからワクワクしてるんだ。
同級生とたまたま出会って、たまたま助けてあげて、たまたまお礼されるだけ。
何度も自分に言い聞かせる。
調子にのるなよ、茅野 亜伊子。
ともすれば、ニンマリしそうな口元を引き締めて、待合場所に向かう。
15分前には着いたのに、香取くんは既に着いて待っていた。
昔から時間にきっちりしている所は変わらない。
中学校の課外活動で、時間にルーズな友人たちの中で、きっちり時間を守る香取くんに好意を抱いた。
強い気持ちではなかったし、本人に伝えもしなかったけれど。
中学卒業後、彼は地元の公立高校ではなく、大学併設の私立高校に進学し、まったく顔を合わせなくなった。
だから今日、声をかけられたのは二十年ぶりくらい。
「おお! 茅野ー。お疲れぇい」
朝、渡した紙袋を持っている。
その姿に思わず笑った。
「笑い事じゃないんですけど!」
笑った私に香取くんはムスッとした表情を見せる。
「ごめん、ごめん」
謝りながら手近な居酒屋へ入る。
とりあえずナマ。
野菜スティック、冷やしトマト、キムチモヤシに串盛り合わせ。
メニューをろくに見もせずにタッチパネルで注文。
着席して1分後には生ビールとお通しが目の前に出てくる。
「いいね〜、このスピード感!」
「待てなくなったら年老いた証拠らしいよ」
「大丈夫、だって俺たち中学からせっかちだったから!」
香取くんの言葉に、「確かに」と言いながら、私たちはひとしきり笑った。
「今朝、この紙袋、オレンジ色でポップで可愛い! って思ったんだよ。だけどさ、女性が持っているポップで可愛いって要注意なんだよな」
語り始めた香取くんに、私はクククと含み笑いをもらす。
止めようと思ったのに止められない。
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