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6
「あと一回って言ったところで、やっぱり上手くいかないもんだな」
私は、香取くんの背中を思い切り叩いた。
「まだあと一回にも到達してないじゃない。落ち込むのはチャンスに到達し、失敗してからでしょう」
そう言うと香取くんが驚いた表情で呟いた。
「さすが。お一人もんは人生の猛者、って感じがするね。逞しいものだな」
感心する香取くんと苦笑いする私。
あと一回。
胸の内で呟いてみる。
自分にもあと一回のチャンスがあるのだろうか。
いや、ないな。
何度も自問自答して出した回答。
目の前で落ち込んでいる香取くんが、無性に羨ましい。
「茅野も、素直になって甘えればいいのに」
落ち込んでいたと思ったら、唐突に私を諭し始めた。
「あと一回、って覚悟が詰まった言葉だよね。もう後がない、みたいな。だけど聞かされる方はうんざりするのかな。そんな事を言っても出来ないでしょ、って」
ハハハと乾いた声で笑った香取くんが、私をまっすぐに見つめる。
「今、オレは奥さんから『お断り』と、言われた。きっと嫌だったんだろうな。奥さんの心は、変わらないかも知れない、けど。オレはあと一回のチャンスを必ず得る!」
香取くんの言葉を聞いて、思わず吹き出した。
カッコよく言っているけれど、結局、やり直すための言い訳に聞こえたから。
問題はそこじゃない気がするけれど。
とっかかりは必要だものね。
夫婦っていいね。
喧嘩しても、繋がりを感じる。
恋人だと切れた凧のように、ゆらりふわり。
持ち手に戻ることはない。
普段は思わないのに、無性に羨ましくなった。
これも杯を重ねたアルコールのせいだろうか。
きっと、やり直せるよ。
そう思ったけれど、香取くんには言わない。
軽く彼の腕を2回、叩いた。
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