第12話 ギリィ楽団の祈り

1/1
前へ
/18ページ
次へ

第12話 ギリィ楽団の祈り

「……あの子……元気にしてるかしら?」  リンは新しく手に入れたカスタネットを指から外しながら、ギリィにポツリと尋ねました。 「……さあな……。ま、あの巣の連中から俺は完全に無視されてっからなぁ。あいつの様子は全く分かんねぇよ……。あれっきり、外でも見かけねぇしよ……」  バイオリンの弦を調整しながらギリィが答えます。 「リンの(あね)さん、まぁた例のアリん子の心配ですかぁ?」 「すっかり母性に目覚めたのかよ、リンちゃんも」  コオロギとカナブンが、ベースとドラムのチューニングをしながらリンを茶化します。キーボードの前に立っているテントウムシが2人に注意しました。 「うるさいよ、あんた達は!……そりゃ心配するわよ、ねぇ? リン」  リンはさみしげな微笑みを浮かべます。ギリィは調整を終えたバイオリンを肩に当て、スッと立ち上がりました。 「誰かを想うってぇのは良い事なんだぜ? その想いを乗せて奏でようじゃないか!」  ギリィはいつものように即興でバイオリンを静かに弾き始めます。カナブンがスローテンポでドラムを合わせると、すぐにコオロギもベースでコードを合わせました。テントウムシのキーボードが揃うと、リンは静かにステップを踏み始めます。    共に旅を過ごしたアントンを想う2人と、そんな想いに寄り添う3人の音色は、アントンの無事を願う祈りのように、夜の草原に鳴り渡りました。 e8eb4866-d09a-4b90-a9b0-7f643192a05d
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加