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第12話 ギリィ楽団の祈り
「……あの子……元気にしてるかしら?」
リンは新しく手に入れたカスタネットを指から外しながら、ギリィにポツリと尋ねました。
「……さあな……。ま、あの巣の連中から俺は完全に無視されてっからなぁ。あいつの様子は全く分かんねぇよ……。あれっきり、外でも見かけねぇしよ……」
バイオリンの弦を調整しながらギリィが答えます。
「リンの姐さん、まぁた例のアリん子の心配ですかぁ?」
「すっかり母性に目覚めたのかよ、リンちゃんも」
コオロギとカナブンが、ベースとドラムのチューニングをしながらリンを茶化します。キーボードの前に立っているテントウムシが2人に注意しました。
「うるさいよ、あんた達は!……そりゃ心配するわよ、ねぇ? リン」
リンはさみしげな微笑みを浮かべます。ギリィは調整を終えたバイオリンを肩に当て、スッと立ち上がりました。
「誰かを想うってぇのは良い事なんだぜ? その想いを乗せて奏でようじゃないか!」
ギリィはいつものように即興でバイオリンを静かに弾き始めます。カナブンがスローテンポでドラムを合わせると、すぐにコオロギもベースでコードを合わせました。テントウムシのキーボードが揃うと、リンは静かにステップを踏み始めます。
共に旅を過ごしたアントンを想う2人と、そんな想いに寄り添う3人の音色は、アントンの無事を願う祈りのように、夜の草原に鳴り渡りました。
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