第16話 冬の夜の大歓声

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第16話 冬の夜の大歓声

  (こご)えるような寒さの、本格的な冬がやって来ました。冷たい風が落ち葉を巻き上げる野原に、虫たちの姿はもう見られません。  青々と (しげ)っていた草林は立ち()れ、茶色く変わった草の茎が冬風に揺れる中、アントンは (ひと)りヨロヨロと歩いています。 7248773a-b6a5-4dbc-860a-e8b9aafdbbc3  あの日のあと、リンとロギーは一緒にどこかへ旅立ち……テン子はテントウムシ仲間のもとに帰って行きました。  ブンは帰る場所の無いアントンを 不憫(ふびん)に思い、ドラムとタップダンスのコンビを結成して面倒をみてくれました。しかし、そのブンも数日前に死んでしまい……今はアントンただ1人っきりの野原です。 「……冬……来ちゃいましたよ……ギリィさん……」  アントンは空腹と寒さによろめきながら歩き続けました。  それでも思い出すのは、食べる物に困らず過ごした巣穴の日々ではなく、ギリィ達と過ごした数週間です。  楽しかったなぁ……  秋野原コンサートのステージになるはずだった丘に、アントンはようやく 辿(たど)り着きました。満天の星空の下……心の中にギリィの顔が浮かび上がります。  ギリィさん……僕……もう……  突然星明りが増し、アントンの周りは天からのスポットライトに照らされました。  いつの間にか自分が「ピカピカの真新しい衣装」に身を包んでいることに気付いても、アントンは驚きません。だって…… f0bca798-6fdb-451a-967b-7065682365dd 『楽しい日々だったかい? アントン。満足出来たかよ……お()ぇの人生(ライブ)に……』  ギリィが笑顔でバイオリンを抱えます。背後に現れたロギーも笑顔を浮かべ、ベースの弦に指をかけました。ブンが笑顔でスティックを振っています。テン子がキーボードの音量を上げると「ブーン……」とノイズ音が聞こえました。  いつの間にか横に並び立ったリンが、アントンの肩にそっと手をのせ優しく語りかけます。 『乗り遅れちゃダメよ。今夜はあんたのステージなんだからさ!』  ニッコリと笑みを向けるリンに、アントンは満面の笑みを返してうなずきました。 「僕の……人生(よろこび)を……このステップに乗せて……」 6839947e-627b-48ff-bb54-64b8fe0798ac  ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~  その夜……僕は死んだ……。誰もいないステージの上で……  見渡す限りの草原に、観客は1人もいない。だけど……あの夜ギリィさん達と一緒に聞いた「あの大歓声」より、もっと大きな歓声が僕の中に響いたんだ……  僕は……この大歓声を聞くために生きて来たんだ……
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