第3話 大雨の日に

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第3話 大雨の日に

 次の日も、また次の日も、アントンは父アリ達と 一緒(いっしょ)一生懸命(いっしょうけんめい)働きます。食べていくために、冬が来ても困らないために、生きていくために……。アントンは (まわ)りのアリ達と一緒に働き続けました。    そんなある日のこと…… 「今日はさすがに食料集めには行けないなぁ……」  グループリーダーのアリが巣穴の外を見て言いました。大雨で、巣の周りは大洪水になっています。 「よし! 今日は巣穴の 浸水対策(しんすいたいさく)をやるぞ!」  巣の中まで水が押し寄せて来ても、食料や 通路(つうろ)がダメになってしまわないための工事をすることになりました。 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~  ……もう何時間おなじ作業を続けているのか分かりません。通路の石を 背負(せお)っては、巣穴の入口から外に出すという作業を繰り返す内、アントンは段々と足腰が疲れて来ました。 「あ痛たたぁ……」  大きめの石を巣穴の外に投げ捨て、アントンは腰を伸ばしました。  おや?  通路からどんどん投げ出されていく土砂の 岸辺(きしべ)に、色鮮(いろあざ)やかな黄色い何かが落ちている事に気が付きました。 41f280fc-9f55-4f67-bf75-6b20dd034ed9  あれは一体……何だろう?   しばらくそれを見ていると……  パタ……パタ……  あっ動いた! あれって…… (ちょう)?  アントンはその正体が気になりました。周りのアリ達は気付かずに作業を続けています。  ……よしっ!……もう少し近くに行けば分かるかも……  アントンは巣穴の外に (きず)かれた土砂の壁を、注意深く降りていきます。  やっぱり! 黄色い蝶の羽だ! 土砂に埋もれてるけど……羽を動かしてるのならまだ生きてるのかも……  アントンは「それ」の正体が分かると、今度は早く身体の部分を確認したいと思い、急いで土砂の (がけ)を降りていきます。しかし、黄色モンシロチョウの羽だと思っていたヒラヒラは、ただの黄色い花びらでした。それが雨水と風に当たって、ヒラヒラ動いて見えていたのです。 「なぁんだ……花びらか……チェッ!」  そう (つぶや)くとアントンは、巣穴の作業場へ戻ろうとしました。その時……  ゴ……ゴゴ……ゴ……ゴ  何やら不気味な音が聞こえ、足元がグラグラ揺れ始めます。 「逃げろー!」   (がけ)の上から、誰かが叫ぶ声が聞こえました。でもその声を聞き終わる頃には、 ()み上げられている土砂(どしゃ)(かべ)がガラガラとアントンの上に (くず)れ落ちて来ました。
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