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第6話 囲まれた3人
「ところでお前さん……見ない顔だねぇ」
甘露の食事が終わる頃、1匹のアブラムシがアントンに尋ねます。
「あ……僕……上流の……向こうの野原に住んでるんです。さっきの雨で流されて来て……」
アントンが説明を始めると、周囲のアブラムシ達がざわつき始めました。
「おい……まずいんじゃないかい?」
「他所モンだってよ」
「おい坊や、食事は終わりだ! 早く行ってしまいなさい!」
アブラムシ達は茎の上に向かい、ザワザワと移動を始めます。アントンはワケが分かりません。
「あの……ありがとうございました! 御馳走様でした!」
それでもアブラムシ達にお礼の言葉をかけ、茎から下り始めます。
「何だよ? もう食ったのか?」
「お腹いっぱいになった?」
茎の下で待っていたギリィとリンが尋ねました。
「あ……はい……ありがとうございました! おかげさまでお腹も一杯に……」
「なぁにが腹一杯だってぇ?」
アントンが地面に降り立った 途端、誰かが声を掛けて来ました。ギリィとリンはハッと周りを見回します。黒い大きなアリ達が、いつの間にか3人を取り囲んでいました。
「なんだぁ? テメェらは……」
ギリィは黒アリ達に問いかけます。
「テメェらこそなんだぁ? 見ねぇ面だなぁ……おい坊主!」
頭の大きな黒アリが、ズイッと前に出てアントンに尋ねました。リンはアントンの 傍に寄り、ギリィは黒アリとアントン達の間に立ちます。
「 怠けもんのキリギリスに弱っちい鈴虫が……なぁんでアリの小僧なんかとつるんでやがんだよ!」
ギリィは 額に汗を浮かべながらも、余裕を 装って笑みを浮かべました。
「誰が誰とつるもうが勝手でしょうがね……おたくの許可は要らんでしょ?」
「何だとぉ!」
黒アリの集団から 罵声が飛びます。それでもギリィは負けていません。
「俺達ぁワケあって一緒に旅をしてるんだよ……おとなしく道を開けてくれねぇかなぁ?」
頭の大きな黒アリはしばらくギリィを 睨みつけていましたが、フッと笑みを浮かべて言いました。
「そのアリん子はテメェの連れ……なんだよなぁ?」
「そう言っただろ……」
良からぬ雰囲気を感じつつ、ギリィは答えます。
「じゃあよ……そいつが俺らの 縄張りで勝手に食っちまった甘露の代金……払ってってもらおうか? 何にもしてねぇ奴なら通してやるけどよ……俺達の食料を勝手に食って知らんぷりってのは、 道理が通らねぇだろ? 俺たちは何か間違ったこと言ってるか? 言ってねぇよなぁ!」
大頭の黒アリが凄みました。
「……ギリィ……どうするの?」
アントンを引き寄せながら、リンがギリィに尋ねます。
とにかく……数が……多過ぎるよなぁ……
ギリィは黒アリ達の動きを警戒しつつ、リンに目配せを送りました。
「悪ぃけどよ……。払えるモンなんかもってねぇんだわ……掴まれ!」
ギリィはリンとアントンに呼びかけ、2人が中足に掴まったのを確認すると、一気に跳び上がりました。
「野郎!」
近くの黒アリ何匹かがギリィの足や体、そしてアントンやリンにしがみついて来ます。跳び上がったギリィは空中でバランスを崩し、少し離れた草むらの中へ落ちるように着地しました。しがみついていた黒アリ4匹も、一緒について来てしまっています。
「テメェ! なめた 真似しやがって……」
襲いかかって来た2匹の黒アリを、ギリィは 破壊力のある後ろ脚で蹴り飛ばしました。
「アントン! おいで!」
リンはアントンを連れて駆け出します。
「おい! 待て!」
2人の後を追い、黒アリが1匹駆け出しました。ギリィは 残っている黒アリを睨みつけています。
「おとなしく 群れに帰んなよ……。こんなとこで 怪我すんのも馬鹿らしいだろ?」
「うるせぇ!」
ギリィの忠告を聞き入れることなく、黒アリは大きな口を開いて飛び掛かって来ました。ギリィは跳び上がってその突進を 避けると、黒アリの頭を目がけ落下します。
グキッ!
ギリィの蹴りを頭に受けた黒アリの首から、 鈍い音が聞こえました。
「おっと……わりぃな! 人の忠告は聞いとくもんだぜ!」
グッタリして動かなくなった黒アリにそう言うと、ギリィはリンとアントンが逃げ込んでいった草の森へ駆け出して行きました。
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