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編入試験
ヴォーハム魔法学校の編入試験が10月半ばに行われた。
マイルは優秀な成績で試験を通った。
グラツは自分の事のように喜んで、先生方の配慮によりグラツと同じ寮になれたマイルはグラツに寮の中を案内してもらった。
翌日から授業に出ると、別の寮の子供たちが遠巻きにマイルを見て、ボソボソと何か言っている。
グラツは
「おい!ベルン!言いたいことがあるならはっきりいえよ。」
と、あまり仲のよくなさそうな寮の子供たちに大声で言った。
ベルン「編入で入ったって言うから、どんな出来損ないかと思ってね。」
グラツ「心配するな。お前よりよほど魔法がうまいぞ。授業でわかるだろう。」
と、言い放ち、マイルを連れて、教室の前の方の席に座った。
教師は特にマイルを紹介することもなく授業を始めた。
そんな情報は子供達はとっくに知っている筈だからだ。
その日の授業は物の移動。
小学校では、落ちてきたら危険なので、せいぜい文房具までしか移動させていなかった。
今日の課題は椅子だ。
マイルは支給された杖を使って、寮で魔法を試していた。
授業で、魔法使いの友達の前では、初めて魔法を使う事になった。
人間の前で机を動かした時にはすごく集中しないと動かなかったのに、杖を使うと簡単に物を動かせることが寮で試して解っていたので、自信をもって椅子を動かした。
椅子は思い通りにピューんとすごいスピードで移動して、先生が言った場所にすとんと落ちた。
あまりに見事だったので、先生も拍手をしていた。
陰口を言っていた生徒たちは何とかフラフラと椅子を持ち上げたが、最終地点までは移動できずに途中でおちて、同級生の頭の上に瘤を作った。
マイルは授業ができたからと言って、いじめがないなどとは思っていなかった。人間の学校にいた『あの頃』だって、別に勉強ができなかったわけではなかったから。
クラスの友達とはできるだけ仲良くして、過ごそうと決めていた。
学校が魔法学校になった所で、子供の性格が変わるわけでもない。
きっと、魔法学校にもいじめはあるだろうし、先生たちだって、知らんぷりする先生もいるかもしれない。
毎日をものすごく緊張しながら過ごしているマイルを見て、グラツは声をかけた。
グラツ「なぁ、もしかして、みんなとうまくやらないと虐められるとか思ってる?そんなに緊張していたら、神経が持たないぜ?」
マイル「あぁ。あんなに嫌な思いはもうしたくないんだ。」
グラツ「魔法学校にはいじめはないよ。見張りがいるんだ。」
ヴォーハム魔法学校の中には沢山の猫がいて、どこに行っても猫に見られているような気がしていた。
マイル「もしかして、猫?猫が見張っているの?」
グラツ「あぁ。あれは全部先生たちの猫だよ。生徒の持っている猫は寮以外は歩けない。先生方はああやって、猫を見張りに立てて、その目を通して生徒の様子が分かるようになっているんだ。猫の方ももうみんな100歳を過ぎているからな。俺たちよりよっぽどお利口さんだよ。」
マイル「へぇ。俺、ちょっと気負い過ぎていたな。だったら、もっと授業に集中して、寮は寮でもっと楽しむよ。」
グラツ「あぁ、それが良い。人間の世界よりは魔法を使っている分、規律には厳しいんだ。」
マイルは、魔法学校に編入出来たおかげで、いじめからも遠ざかることができたようだ。
それからのマイルは授業に集中したことで、より、魔法が充実し、寮でも、元々の明るさで、沢山の友達ができた。
実は幼稚園で一緒だった子達が結構いて、その子達は、マイルは最初からヴォーハム魔法学校に入ってくると思っていたのに人間の学校に入ってしまったので残念に思っていたのだと言う。
マイルは幼稚園で、自分でも気づかないうちに結構魔法を使っていて、それが可愛い花畑を作ったり、シャボン玉を園庭中にとばしたりと楽しい魔法ばかりだったので、一緒に入学するのを楽しみにしていたのだという。
マイルは心根が優しい男の子だったようだ。
物心ついたばかりで使う魔法は結構多めに見てもらえる。
本人もあまり意識していないから。
魔法にはその子供の性格が現れるし、それを見て、ヴォーハム魔法学校の先生方は生徒をしっかりと正しい魔法使いになる様に、闇の魔法などを決して使わないように指導していくのだ。
ヴォーハム魔法学校の中学校の最初の試験で、グラツが1位マイルが2位をとった。
小学校時代に一切魔法を習っていなかったマイルが2位をとるとは、素晴らしい成績だった。
マイルは編入試験前にグラツがしっかり教えてくれたからだと言い、グラツは危うく負けるところだった。と、冷や汗をぬぐった。
先生方もマイルが優れた魔法使いになれそうな資質を持っていることをしっかりと認めた。
故に、グラツと共に次の試験までさらに厳しく教育されることになるのだが。
マイルは自分の個性を生かせる学校に入れたことを喜び、人間の世界も、もう少し子供の個性に眼を向けてくれればよいのになぁ。と、少し残念にも思った。
ともあれ、マイルのこれからの人生は明るいものになりそうだった。
もう、『あの頃』には戻らなくて良いのだ。
ヴォーハム魔法学校万歳。
【了】
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