1-2 感染

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 素手で扉を叩く者。体当たりする者。悲鳴と怒号と助けを乞う幾つもの声がとぐろを巻き、出口の無い空間に滞留しては(ひし)めき合う。ほんの数分前までは自分達と同じ境遇だった仲間が、牙を剝いて仲間の血肉を喰らう。そうして命尽きた者までが、程なくして起き上がるや同じように他者に襲い掛かった。  ――地獄だ。私達は今、地獄の釜の中に居る。  あまりの光景に、私は逃げることもせず呆然と立ち尽くしていた。目の前の現実が、まるで遠い世界の出来事のように思えた。  しかし、それは確かに実際に起きていて、私だけを置き去りにするようなことはなかったのだ。  不意に、眩暈を覚えた。世界がぐるりと回転するような凄まじい酩酊感。堪らず嘔吐し、たたらを踏む。しまいには留まれずに(くずお)れた。  それは心因性のものではなく、紛れもなく私の肉体が変調を来した表れだった。遂に、私の番が来たのだ。  画面の男の声だけが何事もないように淀みなく説明を続けていた。
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