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1-3 覚醒
熱い液体が喉奥に注ぎ込まれ、反射的に嚥下した。
――甘い。
熟れた果実のような芳醇な香りに、濃厚なチョコレートを思わせる味わい。……何だろう、これは。
舌先からとろりと溶けて、口内に広がっていく。甘美な感覚に、拡散していた意識が集約する。脳髄に痺れるような快楽があった。
もっと……もっと、欲しい。求めて、貪るように舌を絡めた。
「んっ……」
途端、鼻にかかったような吐息混じりの声が耳朶を打った。驚いて目を開くと、至近距離にやたら綺麗な顔がある。長い睫毛が震えて持ち上がり、紫電の瞳と瞳が合った。
「ッ!?」
動揺に強張る私の口から、柔らかな弾力のものが離れていく。それは、相手の唇だった。接合していた舌先から互いの唾液が糸を引き、中空でぷつりと途切れては仰向けの私の顎先を汚す。その感触に、私は酷く困惑した。
「気が付いた?」
濡れた唇を指先で拭いながら、彼は艶然と微笑んだ。よく見ると、唾液だけじゃなく何か紅い液体も混じっているようだ。
訳が分からなかった。今、己の身に何が起きていたのか。勘違いでなければ、私はこの青年と――。
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