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強い静止の声が飛んだ。泣く女性とはまた別の方角からだ。見ると、二人の人物が対峙している。一人は、金髪でガタイの良い目付きの悪い男。もう一人は、鳶色の髪の真面目そうな痩身の男性だった。
……いや、まだ居る。鳶色の男性が背に隠すようにして、今一人。彼と同じ髪色の、そっくりな顔の青年が蹲っていた。双子だろうか。微かに唸り声を上げる歪んだ形相を見るに、その人物はもう手遅れと知れた。――ゾンビ化しかけているのだ。白衣の男の言葉を借りるなら〝食人鬼化〟と言った方が正確なのかもしれないが。
金髪は、警戒する鳶色にはお構いなしにズカズカと寄っていく。
「庇ってんじゃねえよ。そいつ、もうバケモンじゃねえか」
「違う! こいつは僕の弟だ! 化け物なんかじゃ――あっ!」
突如、背中の弟が兄に飛びかかった。大口を開いて兄の肩に牙を突き立てる。
「ほら見ろ、言わんこっちゃねえ!」
金髪は何故か愉快げに嗤うや、二人の元へ一気に距離を詰めた。兄にかぶりつく弟の頭を鷲掴みにし、力任せに引き剥がす。抉れた肩から血を流し、それでも兄は弟の方へと手を伸ばした。
「やめろっ!!」
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