0-1 兆候

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「もしかして、次の任務が不安なのか?」  一つ思いついたことを口にしてみると、ツヴァイは虚を衝かれたように目を丸くした。興奮すると紅く染まる瞳も、今は本来の落ち着いた紫だ。綺麗な色だと思う。そこに映り込む私は我ながらつまらない黒髪黒瞳で、やけに硬い表情をしていた。 「確かに次の作戦は非常に重要なものとなるだろう。失敗は許されない。だが、お前らしくないな、弱気になるなど」 「えっと」 「安心しろ。約束しただろう、お前のことは私が守ると。お前が死ぬ時は、私が死ぬ時だ」  風が吹いた。誘われて舞い上がった花弁が、ツヴァイの柔らかな白銀の髪をサラサラと弄び、彩る。  春の風は荒い。ただでさえ短い花の命を乱暴に蹴散らしていってしまう。 「ああ、うん。そういうことじゃなかったんだけど」  面映ゆそうに長い睫毛を伏せて、ツヴァイは苦笑した。髪に絡む薄ピンクの花弁を白い指先で摘み上げ、そっと風に乗せて戻す。 「まぁ、いっか」  月の明るい夜だった。だからだろう、明かりなどなくとも暗闇を見通せるこの瞳には、その光景がやたらと眩しく映った。
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