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1-6 生贄
鏡には、仏頂面が映り込んでいた。
混じり気のない黒の短髪。黒い瞳。やたら育った上背に、広い肩幅。発育が良すぎるのは今に始まったことではないので、特に変わったところはなさそうだが……。
確かめるように鏡面に顔を近付けると、私は口を大きく開いてみた。するとどうだろう、上の犬歯に当たる位置の歯が、左右同時ににょっきりと伸びたではないか。
驚いて今一度閉口してみると、それは縮んで収納される。どうやら、開口した時のみ伸びる仕組みのようだ。何かで見た蛇の毒牙を彷彿とさせる。
何にせよ、牙があるという事実に己の変化を嫌でも実感せざるを得なかった。
私はやはり、〝吸血鬼〟になってしまったのか。
暗澹たる気持ちで溜め息を吐いた。
思い出すのは、今日これまでのこと。
あの後、迎えが来てようやく外に出ることが叶った訳だが、そこでもまた一つ新たな悲劇が起きてしまったのだった。
◆◇◆
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