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鳶色兄は全く怯むこともなく、凄まじい気迫で白衣の男へと向かっていく。痛みを感じていないのだろうか。そこで、私は見た。男が白衣の内側から何か黒い小型の端末を取り出したのを。――嫌な予感がした。
「やめろ!」
私が叫んだのと、ほぼ同時だった。男が端末を操作し、鳶色兄の身体が吹き飛んだ。あとほんの少しで男に手が届こうかという距離だった。
まるで、弟の時の再現のようだった。胸の内側から破裂するようにして、上半身がバラバラに霧散。残された下半身が力尽きてその場に倒れ、後には紅い雨が降る。青い炎は他に落ち、血液を浴びて燻り、やがては消えた。
しかし、程近い距離に居た男の白衣が赤く染まることはなかった。よく見ると彼の周りだけ透明な硝子のような膜が貼っている。それが血飛沫を防いだのだ。
機械兵が同じものを使っているのを見たことがある。光エネルギーの展開によって形成される障壁――光化学シールドだ。
その内側で、男は涼しい顔で端末をしまいこんだ。そうして、
「ですから、申し上げておりましたのに……非常に残念です」
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