1-6 生贄

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 芝居がかった調子で首を左右に振り動かした。如何(いか)にもわざとらしい態度。  ――見せしめだ。  そう思った。鳶色兄は、見せしめにされたのだ。言うことを聞かないとこうなるぞと、改めて私達に示す為に。  あの黒い端末が爆弾のスイッチに違いない。罠だ。白衣の男が一人だけ軽装で来るなんて、考えてみればおかしな話だ。奴は初めからこうなることを見越していたのだ。そうして、まんまと……。  殺された。  鳶色兄の残骸は、今や再生の(きざ)しを見せることもない。ただの肉片としてそこに転がっている。やはり、〝食人鬼〟同様、我々の弱点も心臓なのだと思い知る。  言葉だけでは、正直半信半疑だった。もしかしたら、心臓が弱点というのは嘘ではないのか。もしかしたら、本当は爆弾なんて存在しないんじゃないか。こちらの憶測を聞いて、都合が良いから話に乗っただけではないのか。……そんな淡い期待が、今のデモンストレーションで見事に粉砕されてしまった。  その為だけに、鳶色兄は殺されたのだ。
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