16人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
1-1 追憶
「何故だ」
押し殺したのは、怒りか、悲しみか。激情をひた隠すよう、私は努めて平静な声音で問うた。
「何故、こんなことをした――02」
適合体No.02 〝zwei〟の逃亡を受け、軍部から彼の追跡及び殺処分の命令が下された。
永年の相棒の突然の行動に、私は困惑を禁じ得ない。当人も分かっていた筈だ。逃げ出したら命は無いことを。なのに、何故――。
何故、私は友をこの手に掛けねばならないのか。
ツヴァイは刹那、表情を消した。そうすると人形めいた綺麗な顔に一層の凄みが増す。息を詰めて答えを待つ私に、彼は直後口元に笑みを刷き、
「さぁ? 何でだと思う?」
茶化すように、問い返した。
〝君にそれが分かるかな?〟とでも言いたげな、挑戦的な瞳。その紫水晶のような紫色を見つめていると、ふと過去の記憶が刺激された。
そうだ、私はこの瞳に魅せられたのだ。
ツヴァイと初めて逢った、あの惨劇の日に――。
◆◇◆
最初のコメントを投稿しよう!