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***
そんな話をしてすぐのことだった。エツコ先生が教室で、ちょっと恥ずかしそうにしながら告げたのである。
「実は、先生……大好きな人と、夫婦になることになりました」
「えええええ本当に!?先生結婚するの!?」
「すごい、おめでとう!」
わああああ、と教室から歓声が上がった。僕もぱちぱちと拍手をしていた一人である。
エツコ先生がずっと婚活をしていたのは有名な話だった。彼女の両親は少し考えの古い人で、彼女がこの年になっても結婚していないことを会うたびに詰られて辛い思いをしていたらしい。今どき結婚しない女の人も多いし、それこそ中高年の年齢になってから結婚する人だっているというのにだ。
時々、本当に時々だけれど“結婚しないと、私って価値のない人間なのかしら”ということを彼女がぼやいていたことを僕達は知っている。大好きなエツコ先生が幸せになると聞いて、嬉しくない子供はいなかったことだろう。
「ありがとう、みんな」
彼女は教室のテンションに驚きながらも、頬を染めて言ったのだった。
「実は、五年くらい前からこっそり付き合ってて、同棲もしていたんだけど。……本当に結婚するかどうかもわからないから、両親にも報告できなくてね。……でもやっと気持ちが固まったから。それもこれも、みんなが先生を助けてくれたおかげよ。本当に感謝してる」
「お幸せにー!」
「リア充爆発しろー!」
「遠藤、それなんか違うと思うぞ。ていうかよくそんな言葉知ってたなオマエ……」
「先生おめでとおおおおおお!」
やいのやいのと騒ぐ仲間たちの真ん中で、僕は考えていたのだった。
熱血で、教師命として生きているようなエツコ先生。そんな彼女と結婚するのは、どんな男性なのだろう。同じ教員なのだろうか。いや、この学校の先生と結婚するのならばきっとそう言うはず。ならば、僕達の知らない男性である可能性が高いとは思うが。
そして授業が始まる前に。エツコ先生は僕のことをちょいちょい、と廊下に手招きして言ってくれたのだった。
「ねえ、新橋くん。……もうすぐお誕生日でしょう?私の家に来る気、ない?お祝いしたいのだけど」
「え、いいんですか!?」
「ええ。お兄ちゃんも一緒でいいわ。久しぶりに彼ともお話したいし」
「やったあ!」
大好きな先生の家に、初めて招かれる。僕は心の底からわくわくしていたし、嬉しかったのだ。
この時は、確かに。
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