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死んでいくものへの真相
ダレンの扮装を解いた男は、既に成人していると一目でわかる外見だった。
よくもまあ、十六歳の俺の扮装を恥ずかしげもなくしていたものだ。
いや。
ナルシストが良くも他人になり切れたものだと称賛するべきか?
ミュゼよりも銀色に近い灰色の髪には紫色のメッシュが所々に入り、俺にどうだという風ににやりと笑って見せた瞳の色は、アメジストの様な紫色だ。
頬骨も高く顎も尖ってはいるが、それは男らしく線が太いという証明どころか、繊細な線を描いているように思わせる特徴でしかない。
筋が通った鼻も太くはなく、女性的とも思える美しい三角のラインであるのだ。
体つきが軍人特有の筋肉質であろうと、全体として全てが洗練されている貴公子の類にしか彼は見えないだろう。
あるいは誘惑の美しき悪魔、だ。
「嫌味な奴だな。お前自身の方がいい男だって知っていての俺の振りか?」
「ははは。君は意外と良い子だ。俺のこの外見じゃあ、あからさまに成人男子じゃないか。それにさあ、悲しくなるのよねえ。いい年した男が、十五・六歳に交じってキャッキャウフフするのって、ああ、悲しい」
「その割には十五・六歳の女の子に手え出しまくりじゃないのか?」
俺の耳に吐息が掛かった。
俺は全身に鳥肌を立てると、奴は嬉しそうに含み笑いしながら、違う、と俺の耳に俺が出したことはないが俺の甘い声で囁いた。
「そんな声でエルヴァイラ達に囁いていたのか?サイテーだな、お前」
「しょうがないよ。俺はうんざりしているんだもの。自分の仕事にさ。揺さぶって、本性を出させて、そして、判定して処分だ。軍がね、必要としているのはさ、完全に言いなりになる去勢された犬か、牙を失った犬だけなんだよ」
俺の膝は崩れて地面に、いや、冷たいコンクリの床である底にごとりと音を立てて倒れていた。
声も出せず体も動かなくなった俺の瞼も開いたままで、それで俺は周囲の状況が良く見えていた。
俺が歩いて向かっていたと思っていた体育館ではなく、俺が転がされたのが今日は完全締め切りになる体育倉庫だったという事実。
そこに子供達を殺す使命を帯びていた軍人がもう一人という、それが全部見えていたのだ。
「少尉。ロランを殺してしまいましたか?」
ジュリア・ノーマンは青年になりかけた声で喋った。
ピンク色の髪をしたノーマンが拒食症でもないのに骨ばっていた理由は、男である癖に必死で女の振りをしていたからという事か?
俺達が奴をちらりとも女装していた男と考えなかったのは、ハハハ、同じ能力者さえも幻惑できる幻術使いだ、当り前だ!!
「いいや。殺してはいないがそのうち死ぬね。死体は君に任すよ。ああ、まーず休み明けにはハルト死亡の演出が必要か。面倒くさい」
「あの、それなら今日で終わりにしては?フォークナーとドロテアも一緒に」
「ロランの存在を今日消せば、エルヴァイラや他のお仲間が暴走するだろう?フォークナーとドロテアも一緒だったらさらに大騒ぎだ。こいつらは外の人間と接触しすぎなんだよ。一人ずつ順番にだ」
「そうですね。セリアの遺体をあのナイマンに勝手に処分された時には驚きましたからね。まさか、ナイマンが寮生をレイプしていたなんて。ああ、私達の評価が駄々下がりです」
「そこは大丈夫だって。いじめを行っている女の子達の自滅行為ってなっただろう。まさか、あんな化け物が出てくるとは思わなかったが」
「本当に。あれは何ですかね。本当にセリアなのですか?」
「さあ?とにかく俺はダンパに出る。頼んだよ。ああ、ロランは会場設営させてからにすれば良かった。お前が煽るから」
「仕方がありません。この時間が一番人目がありませんし、エルヴァイラもハルトがやるならって、飛び入りで委員立候補ですから」
「うっそ。俺はロランとエルヴァイラの間には何もないって訂正情報流しちゃったよ。それを先に行ってよ」
「すいません」
「では。出るから」
「お気をつけて、少尉!!」
少尉とやらは再び樹脂の面を被り、ちくしょう、俺の姿を纏ってそのまま薄暗い体育倉庫を出て行った。
俺は硬直する体が痛いと、こんな状態が辛いと、殺される恐怖よりも痛みからによる涙が両目から零れていた。
瞬きできなくて痛い。
そういう事にしてくれ。
もう二度とミュゼに会えないのかと、愛していると言いたかったと泣いているなんて辛すぎるじゃないか。
ほら、足首だってチクチクして痛い。
足首?
目玉を動かせなかったが、俺の視線の中に俺の足首は映っていた。
俺の足首にはピンク色の針が突き出している。
ニッケめ!
スナイソギンチャク様のトゲは全部抜いたと言っていたじゃないか!
残っているぞ!
「さて。そろそろ息が止まる時間だよね」
ノーマンが俺へと近づいて、俺の顔のすぐ前にしゃがみ込んだ。
そして彼は、くの字に転がっている俺の足首を無造作につかんだ。
「ぎゃあ!」
何という事。
ノーマンはイソギンチャクのとげに貫かれた左の手の平を掲げ、自分の手の平の状態に驚きながらそのままごとんと横に倒れたのである。
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