パーティの参加者、たち

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パーティの参加者、たち

 特待生は人数が少ないから全学年参加となるが、一般学生は数が多いために最終学年と参加者から招待を受けた人間しかダンスパーティには参加できない。  なので、私にとっては最初のダンパだ。  そして、夏休み明けにはこの町にはいない私には、最後のダンパでもある。  最終学年のジュールズにだって最後の大事な思い出となるダンパならば、彼のパートナーとしてダンパに招待された感謝を彼に示すべき。  私とニッケは突貫工事でダンパのドレスを縫い上げて、そして思いっきり着飾り、そして今や、ジュールズの両腕にしがみ付いている。 「両手に花とは、俺は男冥利に尽きるのかな?」  黄色の髪をオールバックにして、タキシード姿で私達に流し目をしてきたジュールズは、雑誌から飛び出て来たモデル並みに格好良いの一言だ。  私もニッケも想い人の事を忘れて、ジュールズに対して黄色い悲鳴を上げてしまったのは、互いの想い人達には内緒だ。  いやいや、ニッケが本気でダレンを好きだとは思わなかった。  半分冗談だと思っていたのだ。  いや、冗談であってくれと、ダレンの為に願ったのか?  根っからの女王様気質である母親より、母親の護衛官であった父親との馴れ初めと言う名の攻略法をニッケは伝授されている。  そんなニッケが我が家に泊まる度に教えてくれたダレン攻略法が、狩り、でしか無かったからだ。  接近し、警戒心を剥ぎ取り、隙を見て首を取る。  ガクガクブルブルである。  この世界に少女漫画があれば、ニッケに貸し出してあげるものを!  だけど、今日のニッケは何もしなくても、彼女を目にしただけで、あらゆる人間を堕とすことが出来るだろう。  ニッケは背が低いからこそボリュームをつけるべきなのだろうが、私は彼女のその妖精めいた美しさを大事にしたいと、ところどころにポイントはあるが基本はシンプルな形のドレスを提案した。  すると、ニッケは、白地に青を乗せたアオミノウミウシの配色で作ってみようかと言い出した。  そのドレスに似合うように、私は頭と肩、そして腰に飾る花飾りも作ったが、チュールレースで作った大き目の花は、アオミノウミウシの触角の色ではなく、ニッケの可愛らしさの為に蓮の花の様な薄ピンクにした。  青系統ばかりで色味を持たない彼女だったからか、その薄ピンクは彼女の顔色を明るく見せ、また白すぎる肌に彩を与える結果となった。 「うひひ。ミュゼは天才的だな。わしが可憐に見えるぞえ。なあ」 「ニッケはいつだって可憐な美少女よ。私は一目惚れしたのだもの」  ニッケはぽんと真っ赤になり、ジュールズの腕に隠れてしまった。  なんて可愛いの! 「そういうお前だって。いや、お前のそれは何をイメージしているんだ?」  ジュールズは褒めるどころか訝し気だ。 「え、可愛くないの?ニッケがアオミノウミウシ様なら、私は苺ミルクウミウシ様風にデザインしてみたの!」  ベアトップにほんのりフレアなスカート部が連なっているというきわめてシンプルなものだが、そこに薄いピンク紫のチュールを重ねてあるのだ。  苺ミルクウミウシ様の背中にある、紫ピンクの水玉だってある。  こんな模様のチュールを探すのが一番大変だった。  前世の世界だったら、ネットで一瞬検索翌日配送だったかも、なのに。  そんな苦労ドレスで聞かざる私の頭に飾る花は、苺ミルクウミウシ様の触角と同じ色の白とオレンジ色で作り上げている。  コスプレは拘ってこそ、なのよ!! 「ねえ、可愛いよね。ニッケ?」 「お、おおう!可愛いと思うぞ。カツラが残念だがな」 「だよな。変装はわかるが、その綿帽子みたいな真ん丸で薄ピンク色のカツラはどうかと思うよ。すっごく変だ」  ジュールズとニッケは同じような眼つきで私をねめつける。  私に私としてダンスパーティに参加しろと言っているのだ。  我慢なんかするな、って。  しかし、前世でやりたい事をやれなかった思いも持っている私だ。  コミックマーケットには足を何度も運んでいた癖に、こういうコスチュームプレイは一度もやった事が無かったのである。  いいじゃない。  今日ぐらいマリー・アントワネットごっこしても! 「あの。こういう派手な格好、実はやってみたかった、から。変なカツラを被って、とか。ほら、若いうちに弾けておけって言うじゃない?」  まあ!ニッケは吹き出してくれたが、ジュールズがこんなに呆れた顔をするとは思わなかった。 「まあ、ジュールズったら。あなたは思った以上に生真面目な人だったのね」 「うわあ!ミュゼちゃんて時々鬼のように尖った言葉を投げるね!我らがジュールズ兄さんは胸に大きなトゲを受けたぞ!」  ダレンだと後ろを振り向けば、私は心臓が止まりかけた。  タキシード姿のダレンは仮面をつけているからか、いつも以上に男前のチョコレートの精となっていたが、彼の隣には、真っ赤なドレスでパッケージされた美女が微笑んでいたのだ。
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