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そしてハッピーエンドへ
私を待ち受けていた、私を嫌う女性達殆ど、その筆頭であるエルヴァイラ。
そして、ハルトや私、それどころか魔法特待生達にこそ酷い事をしていたらしい魔法士軍人のショーン・アストルフォ。
彼らは、いいえ、ショーン・アストルフォを抜けたそれ以外は、全員が私の満身創痍の姿と同じようなボロボロ姿のハルトの登場に度肝を抜かれていた。
私は今こそと、恋人宣言をあげるのだと息を大きく吸った。
「ミュゼの恋人は俺だ!今後、ミュゼに、こんなひどい事をする奴は全員をぶち殺してやるからな!ミュゼに色目を使う男もだ!ミュゼは俺だけの、俺の大事な恋人だ!分かったか!この野郎!!」
ハルト!!
幸せばっかりで私の頭が真っ白。
そして、会場の人達は、やっぱり真っ白?唖然とした顔ばかり。
ぱちぱちぱち。
気の抜けた拍手が起きたと視線を動かせば、ショーン・アストルフォは嬉しそうに拍手をしていた。
ハルトの格好のまま。
「うわあ、俺そっくりの色男じゃないか!エル、俺と彼を間違えていた?」
「いやだあ、そんなはず無いわ。あたしは最初からわかっていた」
「それじゃあね。あのカップルのために乾杯してあげようよ。偽物にお似合いの偽物のシャンパンで」
「まあ!!ロランったら意地悪ね」
アストルフォは自分はハルトで通すらしい。
彼のせいでエルヴァイラは本当のハルトを偽物と思ったまま、ショーンの言いなりに乾杯用の飲み物を取りに走ってしまった。
そしてアストルフォは私達に気さくそうな笑みを向ける。
「俺に感謝するべきだよ?」
誰が!!
お前こそ負けを認めて扮装を解けよ?
私はそう言ってやりたかったが、ハルトが私を抱き直した。
彼にさらに密着する事になった私は、ハルトの腕の中という特等席から動きたくなくなってしまった。
でも、私こそハルトが恋人だって声をあげなきゃ。
いいえ、ハルトに酷い事をした奴に、言ってやらなきゃ、だわ!!
「彼は私の大事な人よ!!彼を傷つけたら、私こそ黙っていないわ!!」
ジュリアに少尉と呼ばれていた男は、素晴らしい、なんて声をあげた。
あなたには私達など簡単に潰してしまえる羽虫程度ってこと?
ハルトはアストルフォの言葉に対して奥歯を噛みしめ、私を抱く腕に力を込めた。
「これでみんな分かったかな?俺は誰ともまだ付き合っていないね!そして感動した。俺の名でこの勇敢なるマリー・アントワネット様を今後虐める奴がいたら、ハハハ、俺への侮辱と見做すよ」
「お前!」
しかしハルトはアストルフォに対してそこで黙りこみ、悔しそうに言いたかったであろう言葉を飲み込んだ。
だってハルトの扮装を解かないアストルフォの言動は、今後の私への安全を約束するものでもあったのだもの。
それに、ハルトこそ誰ともと言う台詞。
エルヴァイラとハルトが付き合ってはいなかったと宣言してくれたのだから、わざわざハルトがアストルフォの言葉を否定出来るわけ無い。
会場に入った時は私達は意気揚々だったのに、なんだか敗戦者みたいにシュンと気持ちが落ち込んでいた。
それはハルトこそだったみたい。
「行くよ?」
彼は静かな声で私に囁くと、会場から出ようと踵を返したのである。
「待て!ハルト!ミュゼの怪我は酷すぎるじゃないか!お前に関係するたびにミュゼはいつもこんなんじゃないか!」
そうだった。
この会場にはジュールズこそいたのだ。
ジュールズは怒りのままハルトをハルトと呼んでハルトの肩を掴み、ダークグリーンのタキシードをしたハルトの姿のアストルフォなど完全に無視をしている。
周囲は再び騒めきだし、すると、アストルフォがまず動いた。
私達の傍にカツカツと歩いてくると、大きな動作でタキシードの上を脱ぎ去って見せたのだ。
人の視線が鳥が舞うようにして動いたダークグリーンに注目し、その深緑の軌跡の終点が私、つまり、私の身体、ハルトの腕にかけられた所で、全員が全員、ハルトだったアストルフォの本当の姿を目にする事になったのである。
アメジスト色に輝く貴公子に。
つまり、結局は、皆に知られたって事だ。
私の恋人はハルトで、私を恋人と宣言した男性こそ、ハルトムート・ロランだという事を。
「ありがとう。ロラン君、そして、勇敢なる姫。君達のお陰で連続殺人犯を検挙する事が出来た。まずはライト君の搬送だ。入院費その他は軍部が持つから心配しなくていい」
変装を解くとハルトよりもほんの少し背が高かった男に対し、ハルトは本気で忌々しそうに唇を歪めた。
「ほんっきで、次は無いからな。ミュゼにちょっかい出してみろ、俺は本気でお前ら軍部だろうがぶっつ」
自分の死亡宣告所にサインすることになる言ってはいけないことをハルトが言う前に、ハルトの親友がハルトの口を押えてくれた。
まあ、ジュールズなんてイソギンチャクに拘束されて、ニッケとダニエルに連れ去られて会場の外へと消えていったところじゃないか。
「はい!ロラン君!ほら、ミュゼちゃんを救急車、救急車に」
「ダレ……わかった。そうだな。ミュゼの治療が先だ」
そこでハルトはもう一度大きく息を吸った。
ハルトの胸が大きく上下した。
ショーンの上着で出来た影の中、周りの人に見えないのであればと、気が大きくなった私はハルトの胸に手を当てようとした。
右手首が変な格好に曲がっていようと、……曲がっている?
ようやく私は自分の状態を見直していた。
ハルトに抱きかかえられている足の右足、それも膝小僧、なんか、白いのが見えていないか?
私が急に感じた体の痛みに息を飲んだのと、ハルトが大声を出したのは一緒だったかもしれない。
「こいつは自殺なんか一度もしたことないよ!俺が岬からこいつを落としただけだ!俺がこいつに一目惚れしたからな!って、ミュゼ!」
素敵な宣言の後に声を裏返しちゃった彼の心配は凄く嬉しかったが、痛みで意識が遠のいていく私は、ハルトには悪いが思ってしまっていた。
私は今ここで死んでもいいかもしれないって。
今、私の人生は最高潮だわ。
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