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能力発現がないならば
「あれ?嘘だろ。五しかない。普通でも低すぎる数値だな。壊れているのか?」
板タブ型魔法力測定器は、私が手を乗せても大いなる劇的な反応などなく、私が過去に政府から受け取った結果と同じ、五、しか数値を示さなかった。
モブだと自負している私にはそんな事だろうと思ったが、私を確かに殺したはずだと騒ぐ殺人者はそんなはずはないと首を傾げている。
けれど私は、この結果を妥当、と考えていた。
主人公クラスや重要人物は、殺されかけての能力発現で、ストーリー展開に大いに役立つだろうが、私は何度も言うがモブなのだ。
モブが無双したら設定崩壊ではないか。
ヒーローが格好良く登場したそこで、怪獣に殺されたばかりのモブが立ち上がって、怪獣をタコ殴り始めたらどうなると思うのだ。
しかし聞き捨てならないのはアストルフォの言葉だ。
確かに殺したはずだと?
私が生きているのは、アストルフォが人の心を少しだけ取り戻して、私に手加減をしてくれたから、なんて甘い期待をした私が馬鹿だった。
「もう一度殺そうかな。そうしたら君はもう一度生き返るかな?それとも、何度も生きかえることが出来るそれこそが君の能力なのかな?」
私はその通りだと言いそうだった。
ゲーム世界のモブなど、プレイヤーの流れ弾が当たっても死なないし、その場に倒れて死んだようになっても、次の場面では再び動いているじゃないか、と。
主人公の為に、あるいは物語の背景としてそこに存在しているだけのもの、それがモブなのである。
だがしかし、ここはゲームではなく小説世界では無かっただろうか?
「どうした?怖くないのか?」
「怖いわ。でも、あの日は痛くはなかった。怖かったけど、苦しくはなかった。私は本当に死んだの?あなたは本当に私を殺したの?」
「殺したよ。君を殺した感触は最高だった」
「嘘よ。生き返ったなんて」
「本当だよ。俺は死んだ君が可愛いと、君の唇に口づけた。もう一度口づけたら、今度は君は死んでしまうかな?」
え?ええええ?
言葉に詰まり目を丸くした私に、アストルフォは人でなしとは思えない気さくな笑顔を向けた。
「どうしようかな。やっぱりもう一回死んでみる?ちゅーしてみようか?」
どうしよう。
本当に顔だけだ、顔だけの人非人だよ。
「ああ、でも、死体が出来たら後片付けが大変なんだよな。ここは俺の生活空間だもんねえ。汚物で汚したくないなあ」
殺しをためらうのは部屋を汚したくないそれだけで、殺される私への憐憫な情など一切なしか!
私も能力が欲しくなった。
目の前で板タプを持ち上げて首を傾げている、見た目だけは最上の男の首を念じただけでぽっきりと折ってしまいたいのだ。
アストルフォは板タブを再び元通りにすると、そこに自分の手を乗せた。
「ほら。ほら。ほら!俺だと検定不能にまで数値が上がるでしょう?壊れているはず無いはずなんだけどな」
五百でメーターが降り切れるしょぼい測定器だとアストルフォが笑うが、通常の人間が五から二十程度で、百を越えれば能力者となるので、機械はこの程度でいいはずだ。
おかしいのは検定不能な男こそ、だろう。
それから蛇足だが、完全無能力者でも生きている限りゼロの人は存在せず、自然放射能があるように魔法力が五程度のオーラを誰しも必ず発している。
つまり、自然放射能を纏っているそこいらの石ころと私は同等なのだ。
でも、単なる石ころと思われたままでは殺される?
「その判定不能が間違っているのでは無くて?あるいは、そのお試しで凄い数値を判定させてきたから、チョロい数値を読み取れなくなった、とか」
殺されたくない羊としては適当な事を言ってみたが、アストルフォはニヤリと笑うと私に両眉を上げ下げして見せた。
「君は姑息だな。俺の判定不能をディスって見せた後、俺が怒るかもと言い直したね。俺を褒める様な感じで。安心して、拷問はしないから」
「拷問をするつもりだったの!」
「だってさ、殺し直すのが面倒で。言ったじゃ無いの。汚物で汚れちゃうって。知っている?死んだ人間ってね、全部が緩むんだよ。括約筋とかも緩むからさ、うんこ垂れ流しになったりするの。ハハ」
笑えないよ、この変態殺人者!
だが、私が裸の洗われた姿でベッドに転がされていた理由を、私は今ようやくすんなりと理解出来たと言える。
死んでいた私は、きっとうんこ垂れ流しとなっていたのだろう、と。
「君はおしっこだけだったから大丈夫。うん、うんこ垂れ流しだったら、生き返りそうでももう一度殺していたよ」
「ハハハハハ。自分の締りある十代の肉体に感謝ですわね」
「うん。締りあったね。十代の肌の張りや胸の張りつめ方は最高だ」
「うわあああ!」
私は魔法測定器を掴み、ろくでもない殺人者に殴りかかっていた。
しかし、私が彼をそれで殴ることなど出来ないどころか、簡単にいなされてコロンと床に転がされていた。
ああ、しまった!怒らせたら拷問される!
しかし、私が受けたのは、お尻への軽い平手打ちだけだった。
「ほら起きて。時間が勿体無い。魔法能力が無いならね、エルヴァイラみたいな超能力があるか調べてみよう」
拷問されなくて良かったはずなのに、気さくなお兄さん風の方が怖いと思ってしまうのは何故だろう。
絶対に後で今の仕返しとかされそうだとしか考えられないのだ。
脅えながらのそのそ起きた私だったが、アストルフォは私に全く興味のない素振りで絨毯の上にトランプみたいにカードらしきものを並べていく。
これなら私はわかる。
透視能力を測るカードに違いない。
「俺が殺して来た奴らの遺体写真だ。何か読み取れるかやってみよう!」
ああ!
本気で目の前の男を殺す能力が欲しい!
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