第24楽章 癒しの魔法

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第24楽章 癒しの魔法

「今日の訓練は実際に魔物を使ったかなり本格的な訓練だ。勿論魔物は君たちを襲うことがないよう、きちんと管理している。動きが怪しければすぐに仕留めるから安心しなさい」  魔術師学科の教授によって始まった小規模訓練は、今日は魔楽部だけで行われる。  合同訓練では補助を不真面目にやる程度の彼らには、非常に緊張感の高まる訓練だった。  学生だけでなく教授も共に出席するのは合同訓練と変わらない。  珍しいことにノートヴォルトもその隅にひっそりと立っていた。 「コールディア、ノートヴォルト教授もいるの、珍しいね」 「あー…そうだね」 「でも教授ってほんとは…だしね」  こそこそ話しかけて来たラッピーは、前に向き直ると「あれかっこよかったよねー」と呟いていた。 (でしょ)  なぜかコールディアが得意気な気持ちになったところで、説明が終了した。  全員が配置についたところで、コールディアは少し離れた所に見慣れぬ人物を見つけた。  服装が宮廷魔術師と似ているので、王宮の関係者かもしれない。  この訓練に宮廷魔術師は来ない。  今彼らも総動員で何かしら働いているため、合同訓練でなければ来ないのだ。  コールディアは魔物に何かあった時、魔術師学科の教授はちゃんと動くのかな? と少し不安になる。  全員が緊張する中、学生の中心に檻が置かれた。  結界に守られているが、中には以前ノートヴォルトも戦っていた狼型の魔物がいる。  気が立っているのか唸り声を上げ、時折結界に触れてはバチッと弾かれている。 「今からこれを檻から出す。首輪と捕獲縄で繋がれているから君たちの所までは届かない。今日は初日だから怖い者は下がっていいが、よく見ておくように」  繋がれた魔物を的に、実際にどんな攻撃でダメージが与えられるのかの訓練。  動物をいじめているようにも感じるが、もう元の動物の意志はなく完全に死を迎えている。  狼の皮を被ったマギア・カルマなので、遠慮をしていれば喰われてしまうのだ。  数名の学生が前に出て、次々攻撃を与えていく。  魔楽部程度の力なら多少当たってもこの大きさの魔物なら倒れることはないだろう。  そもそも氷以外はなかなか効かないし、その氷すら出せる者は少ないのだが。  縄に繋がれた魔物は飛んでくる魔法を左右に飛ぶように避けて、当てることも困難だった。 「レングラント様たちの戦いを見ていて当たるのは当然と思っていましたけど、当てることも困難なのですね」  誰も掠りもしない攻撃を見ながら、フレウティーヌが言った。   「氷の矢(アイシクル・アロー)って弓みたいに出す方法てどうやるんだっけ? 前に先生がやってたような。あれだと精度が上がるんだよね?」 「単純に時間をかけて集中すればいいんじゃない?」 「もう何人か氷で攻撃してるし、やってみてもいいよね?」  ノートヴォルトには“空気を読んで”と言われている。  誰も氷で攻撃できないのに、コールディアたちだけがいきなりやっては魔楽部においては変だからだ。 「ちょっとやってみる」  そう言うとフレウティーヌが補助魔法をかけてくれた。  コールディアは両手に水の元素を集め、更に魔力を注いでいく。  水は氷になり、両手に冷気がまとわりつく気配がある。  見えない弓でも射るかのように構えると、魔力で発現した氷の弓矢が現れた。  前にノートヴォルトに教えてもらった、集中の仕方を思い出す。    ゆっくり息を吐いて遠くの魔物を見据えた。  学生の攻撃を交わして動き回る狼。  その気配を辿ることが出来れば、魔力の矢が感知してある程度追尾をしてくれる。  ここだ、と思う瞬間があった。  弦を引いていた右手が離されると、鋭い音と共に氷の矢が射出された。  弓は消滅したが、そのまま矢が吸い込まれるように魔物に向かう。  当たる、そう思った時。  誰かが放った火炎柱(バーニング・カラム)に矢は絡め取られ、消滅してしまった。 「惜しい!!」 「もう! 誰ですの!?」  ラッピーとフレウティーヌがコールディア以上に悔しがる横で、当の本人は魔法を放った人物を探した。  視線の先に学生の後ろに隠れるように立っているノートヴォルトの姿が見えた。  目が合うと、彼は首を小さく横に振った。 「先生だよ。多分あのまま当たってたら倒すか、ダメージが入ったのかもしれない」 「なんでそれを止めちゃうの? 倒せたら凄いのに!」 「いいんだよ、これで。出来ることはわかったし」  だがこの時、既に彼女は派遣された宮廷魔術師の幹部により目を付けられていた。  彼が持つ手元の資料には、コールディアの名前の横に“A”と書かれていた。    名前のずっと上部には、「燃料」と「攻撃部隊」の項目がある。  彼女の謎のA判定は、その「燃料」の欄についていた。
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