第23楽章 音楽教授による魔術講義

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第23楽章 音楽教授による魔術講義

 発表されたカリキュラムは、増えた訓練の分授業が減っていた。  通常の単位より減ってしまうので、長期休みの補習での単位の取得、簡単な追加テストによる単位取得扱い、またはその併用と、学生には選択肢が与えられた。  ただし資格取得のための単位はその対象とすることはできず、教員を初め許可証の必要な進路を選んだ者はこの時点で卒業の延期が決まった。  その代わり就職の斡旋など、卒業時に特別な処置が施されると発表された。  合同訓練は相変わらず月1回だが、小規模訓練や、魔術系の授業が増える。  1度結界が破れたこともあり、本物の魔物に対処する訓練も導入された。 「物々しいですわね」 「まさか私たちの代でこんなことになるなんてねー」 「まあ仕方ないよね。そういう説明は入学時にあったしね」  昼休み、コールディアはいつもと同じようにフレウティーヌとラッピーと共にカフェにいた。  いつもと違うのは、そこにノートヴォルトがいるということ。  どう見てもまともに食事をしていない彼を見て、コールディアが無理矢理連れて来た。  目の下にはこのところお目にかかっていなかったクマもできているので、あまり寝ていないのかもしれない。 「先生、朝食べました?」 「覚えていない」 「寝てます?」 「寝ているかもしれない」 「だめだね、なんか1年の最初の頃に戻った感じ。幼な妻の出現で健康的になったかと思ったのに」 「幼な妻?」 「コールディアですわ」 「コールディアでしょ」 「君たちそういう冗談は僕のいないところでやって…」 「もしかして教授照れてます?」 「好きに解釈しなよ」 「じゃあ照れてることにしよう。今教授は猛烈に悶えているってことで」 「2人ともやめてよ…」  その時、カフェにキーーンという音が響いた。  フレウティーヌとラッピーがぎょっとして顔を上げる。 「違うよ、全然違う」 「結界の音じゃないよ。多分おばちゃんがまた棚に物ぶつけてる。なんでか凄く響くんだよねアレ」  ノートヴォルトとコールディアの言葉に、2人が「よかった」と胸をなでおろした。 「お2人とも耳がよすぎですわ」 「私は先生ほどじゃないよ。ああもう先生、ちゃんと食べましょうよ、お腹すかないんですか?」 「すいたような、すかないような」 「あーあ。なんで150年も続いた結界が急に壊れるかなー」  ラッピーが嘆きながらベーグルサンドにかじりつく。  確か男爵令嬢だったよね? と思うような豪快なかじり方。 「続いていたわけじゃない、続くように繕っていた」  ボソっとノートヴォルトが言う。  視線はテーブルの上のブラックコーヒーを見ているようで、どこか遠い。 「15年前投下された“燃料”が尽きようとしてるんだ。マギアフルイドは永遠でも完全でもない。今代替になるものはない…」  “燃料”にコールディアだけは反応し、他の2人は「そうなんですね」と相槌を打っている。  尽きようとしている燃料とは、きっと妹のことなのだろう。 「そもそも倒しても倒してもなんで魔物って湧いて来るの? そんなマギア・カルマってたくさんあるの?」 「結界がある限り、マギア・カルマもまた消えない」  今度はコールディアも含めて3人でノートヴォルトを見る。   「結界の燃料になる魔力にはそれだけのエネルギーがある反面、人が関わる以上必ず残りカスみたいなものが出る。注ぐ魔術師の精神面が大きく関わるからね。負の感情は必ず付きまとう…増殖装置が増やすのは何も魔力だけじゃない」 「負の感情って…属性の正負とは違いますの?」 「君たちで言うなら“テスト嫌だな”“補習めんどくさいな”“授業さぼりたいな”…それがもっと大きな内容だったら…そういうこと」 「ではなぜ結界を張り続けますの? 矛盾していませんこと?」 「結界が張れるようになってから表向き平和だろう…外のことなんてほとんどの人は知らないからね。結界を張る遥か昔から魔物もマギア・カルマもあった。魔法があればどうしても対として存在するんだ。ゼロにしないまでも、装置なんか使わずにほどほどにしておけば“魔王”なんてそう頻発しないんだ」 「教授、詳しいですね。いつもの魔律理論とかより遥かにためになるんですけど」 「ラプソニア、君今期は落第ね」 「ノートヴォルト大先生、いつもためになる講義ありがとうございます。ってやば、私先に行かなきゃ。楽譜取りに行くの忘れてた」  ラッピーはそう言うと休み時間の半分以上を残して走って行った。  彼女がいなくなると、フレウティーヌがおずおずと尋ねた。
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