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「教授がお忙しい理由は、以前お伺いしたお話しと何か関係がございますの?」
「まあそんなとこだね」
「ねえ先生、明日早速本物の魔物使った訓練があるんですけど、そんなの学院に入れて大丈夫なんですか? というかそもそも連れて来れるものなんですか?」
「大丈夫なんじゃない。1匹くらいなはずだし。捕獲は面倒だけどできなくはない。追い立てて小さな結界の檻に入れるだけだから」
「だけって…もしかして関わってますか」
「連中は人使いが荒いんだよ」
忙しい原因の1つはこれか、と思う。
他の魔術師でもできるのならわざわざ先生を使うなと思うが、他の魔術師がどれくらい対応できるのかはよくわからない。
もしかしたらかなりの重労働の可能性もある。
「君たち氷は? 使える?」
「私は無理ですわ」
「私は出来たり出来なかったり」
「魔物対処に有効な魔法は君たちなら氷一択だ。古典が使えるなら光の方がいいけど、そうでない場合は氷。どうしても無理なら、とにかく火以外で」
「一般的には火が一番攻撃力があるのでは?」
「対魔物はだめだ。火は負の影響が強すぎてほとんど効かない。僕が先日氷だけだったのはそういう理由だ」
結界が破られた日、ノートヴォルトだけでなくレングラントも氷を使っていた。
あれはそういう理由だったのかと今納得した。
「この学院で確実に氷ができる学生は魔術師学科くらいじゃない?」
「氷は水の上位互換だ。魔力を一定値まで上げられれば出来る。コールディアが出来たり出来なかったりというのなら、あと少し魔力が上がれば安定する。2人とも手を出して」
テーブルの皿とグラスを避け、2人が手を出した。
「まず無理でも氷をやってみよう。氷の矢が一番楽だ。飛ばさなくていいから手のひらに出してみて」
フレウティーヌが呪文を唱えると、手のひらの上で水が氷になりかけて消えた。ただの水が手のひらを濡らして消えた。
コールディアも唱えると、矢の形をとりかけて消えた。
「フレウティーヌ、君少し水が苦手? 魔力を集める時、シーソーみたいに軽く浮いてしまった方に少し力を寄せて。魔律を調整するのと同じ、ど真ん中にあてていくんだ。魔力上昇。今度はどう?」
コールディアの水が霧氷のようになり、収縮すると矢の形になった。
フレウティーヌは、先程のコールディアのように形になりかけて消える。
「コールディアは今ので良さそうだ。フレウティーヌ、君はあと2回重ねればできそうだな…バランスの取り方は今のでいい。魔力上昇・リピート」
ノートヴォルトが1回指を弾いて同じ補助魔法をかけると、今度はフレウティーヌの手のひらの上にも氷の矢が現れた。
「出来るね。もしどうしても立ち向かわなければならないのなら、補助をコールディアは1回、フレウティーヌは3回かければ確実に氷が出来る」
「わ、私こんなにすんなり新しい魔法が出来たの初めてですわ…シーソー…バランスを取れっていつも言われますけど、なるほどシーソーなのですのね」
「先生、魔術師学科の教授の面子丸々潰しましたね」
「あのね。君たちの命を守ることに繋がるかもしれないんだよ? でも訓練ではすぐ使わないで。ちゃんと空気読んで使いなよ」
コールディアたちは「はい」と返事をすると、皿の上に残ったままのサンドイッチを無理矢理ノートヴォルトの口に突っ込み、臨時講習のようなランチは終了した。
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