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ノートヴォルトが学院に到着するまでの間に、また結界が1つ壊された音が響いた。
そして学院に到着した彼が目にしたものとは。
中央広場でポータルが稼働し、そのすぐ近くでは激闘が繰り広げられたいた。
遠隔地から増殖炉の“燃料”を搾り取り転送することが出来るこの装置は、中に人が――主に魔力の高い女性が1人そのまま収まることができ、装置を経て高濃度魔力を抽出する。
中に入った人間がどうなるかは、当然ノートヴォルトは知っている。
ポータルは遠目にも赤みの強い黄色の光を帯びており、つまり中で既に犠牲者が魔力を搾り取られているということだ。
「誰が一体…」
絶対にその人だけは入ってはならない人物が頭をよぎり、ノートヴォルトは装置へと駆け寄った。途中、魔術師が打ち漏らした魔物を何匹か一撃で落としつつ。
女子学生が回りを取り囲み、その中にクレド公爵の姿もあった。
ここだけはクレドが防御壁を張ったのか、足元に薄く光る魔法陣が魔物を遠ざけていた。
「クレド公爵! なぜポータルを!!」
「おお、ノートヴォルト。随分早い回復だな。ポータルがなければ結界が復活することはできん。当たり前だろう?」
学生をかき分け進み出ると、中心に鎮座するポータルの光の中に、一番あってはならない人物が収められていた。
「コールディアっ!!」
「彼女は君に随分心酔しているようだ。以前の調査より魔力も上がっていた。結界が戻らない時に君がどうなるのか説明したら自ら入ってくれたよ。自己犠牲と母性と愛。最高にピュアでクリーンな燃料ではないか」
「教授っ!」
「フレウティーヌ…」
「私たちの誰かが入らなければならないとなった時に、コールディアは私たちを庇ってくれたんですわ。教授…コールディアが…“先生ごめんね”って…」
「クレド貴様…」
「今私に怒りの矛先を向けるのは違うのでは? あちらを見なさい。君の兄弟がとんでもないことになっている…」
ノートヴォルトが怒りに染まった視線を奥に向けると、遠巻きに補助を試みる学生と魔術師たちの放つ氷塊の中に、これもあってはならない姿を見つけた。
アポカリプスを身に纏い、次々と大型の魔物を沈めている。
時々暴走しかけているように見える魔法は、恐らくアポカリプスを制御しきれていないのだろう。
「レニー!」
「早く行かないと彼も死んでしまうかもしれんぞ」
ノートヴォルトはクレド公爵を振り返り射殺せそうなほどの目で睨んだ。
ポータルは1度繋いでしまえば複雑な手順を正しく踏まなければ解除することはできない。
元々搾り取る目的で作られているので、入ったら出す必要がないからだ。
途中で無理に出せばどんな影響が出るかわからない。
そしてフリーシャと目の前のクレドならその手順を知っているが、ノートヴォルトは知らなかった。
クレドを脅したところで今すぐに解除などしないだろう。
「フレウティーヌ、ラプソニア」
「はいっ」
「はい!」
「君たち学生にお願いすることじゃないのはわかっている…わかってるけどコールディアを助けてくれ…このままでは30分以内に彼女は魔力が尽きる」
「私たちはどうすれば?」
ノートヴォルトはポータルに近づくと眠るように装置に収めれたコールディアを見る。
装置に繋がれた手元にはこぶし大のオーブがあり、同じものが頭の近くもあった。
「こことここに手を置いて…置いた瞬間内臓を吸い込まれるような感覚が走る。こうやって使う」
彼がオーブの上に左手を乗せ、頭の近くのオーブには右手を乗せた。
すると無色透明だったオーブが赤く輝く。
「これは犠牲となった者の延命装置。意識が遠のきそうになるとこれで少しだけ補助をする…最後まで魔力を吸い尽くすためのね。こうやって手を置いている間はコールディアに魔力を分けられる。彼女の魔力量ではすぐに枯渇して廃人になってしまう。だからこうして分けてやって欲しい」
そう話す間にもオーブが赤く反応しているということは、彼も今魔力を吸われているはず。だが話す言葉は揺らぐことなく、見た目にも変化はない。
「やり過ぎると君たちも倒れる。眩暈がするようでは遅いから、本当に数秒でいい。フレウティーヌ、出来るか?」
「当たり前ですわ」
「では手をここに…かなり気持ち悪いよ。いい?」
フレウティーヌが真剣な面持ちで頷く。
こうしている間にもコールディアの魔力は減り、後ろで激闘を繰り広げるレングラントは命を削っている。
「いくよ…」
フレウティーヌの手を取り、オーブへと導く。
触れた瞬間、彼女は一瞬痙攣し声もなく崩れかける。
膝がかくりと落ちる前に、すぐにノートヴォルトが引きはがした。
時間にして5秒程度。
「大丈夫?」
「少しびっくりいたしましたけど…このくらいなら大丈夫ですわ…」
フレウティーヌは全力疾走でもしてきたかのように荒い呼吸をついている。
「わかった? このくらいでいい。みんなが協力してくれるのなら15分くらいは伸ばせる…その間になんとかあっちを収めてくるから」
「教授、やります」
「私もやらせてください」
その場にいる学生が皆頷く。
それを見てノートヴォルトも頷いた。
相変わらず後方で響く戦闘の音が苦境を知らせてくる。
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