第27楽章 Mein Vater, der Erlkönig

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「おお、レングラントと言えどアポカリプスを操るのは無理だったようだな。 お前がどれだけバケモノなのかがよくわかる」 「黙れクレド…もしコールディアが死んだら貴様は魔障漬けにした上で僕が弄り殺してやる…」  気弱だと思われている教授の口から出た聞いたこともない呪詛の言葉に、事情を知らぬ学生たちが恐れと戸惑いの表情を浮かべる。  抑えきれない鬼気迫る魔力に、クレドですら怯んだ。 「コールディア…すぐ戻るから…頑張るんだ」  コールディアを包むポータルのクリスタルに張り付くようにしてそう言うと、ノートヴォルトは戦況が悪化したらしいレングラントの元へと急いだ。 「レニー!」 「アフィ…くっ…」 「すぐに外して。なんで装備した?」  ノートヴォルトはふらつくレングラントの体を支え、その装具を外そうとする。 「父上が…」  両手両足のブレスレット型とアンクレット型、そしてローブの全部で5つの装備。  ノートヴォルトはレングラントが無理に装備してしまったそれらを急いで外していく。 「テストモード:解除(リリース)。父上? あいつの指示なの?」 「違う…これは私の意志…そうではない、父上は…あれだ」  全て外したノートヴォルトが、先程からレングラントが戦っていた大型魔物の方を見る。  黒い霧のようなものを纏ったそれは、ヒト型。そしてまだ取り込み切れていない面影に残るのは、いくら憎んでも足りない実父、ヴァルキン・ショスターク。 「あぁ、るぅ、みぃ、ぬぅ、すぅぅ」 「…っ!? なぜ…?」  ヴァルキンも優秀な魔術師。  ノートヴォルトのような兵器としての訓練をしていないとは言え、レングラントと並ぶ、いや経験値が高い分それ以上かもしれない能力を持っている。  それなのに、彼は今どんどんマギア・カルマを集めるように纏わせ、取り込み、異形のモノへとなろうとしている。  しかも吸収しているのはマギア・カルマだけではない。逃げまどう周囲の魔物まで捕えていく。 「外で“魔王”発生が確実と思えるほど巨大なマギア・カルマが集結していた…父は他の魔術師を学院(ここ)に帰し、単身弱体化を試みて…」 「なんで1人で!」 「父には父の信念がある…お前には理解されないのはわかっているが、私は父を全否定はできない…”魔王”が確実となった時、父は自ら・・・父の力なら完全に取り込まれるまでに時間がかかる。お前に、託したんだ…お前なら確実に仕留めると」 「あるぅみぃぃぬぅすぅうう」 「その名で僕を呼ぶな!!」  ゆらりとノートヴォルトが立ち上がると、レングラントから取り上げたローブを身に纏う。  群青のローブは布そのものが繊維化したマギアフルイド。同じく糸のような金属を複雑に表面に張り巡らし、いくつもの魔法陣を繋いでいる。  マギアフルイドのローブはそれ自体が装着者の魔力状態を表す。  レングラントならばマギアフルイドの限界である赤。  ノートヴォルトなら振り切れてしまったことを示す白。  ローブを着ると、アンクレットとブレスレットも装備していく。  ノートヴォルトは装備しながら恨みの言葉を吐いた。 「1度も・・・ただの1度も僕のことなど認めなかったのに。10歳でS級魔術師10人相手にした時も、16歳でアポカリプスに適合した時も、19歳で1人で100匹相手にした時も・・・お前は! ただの1度も! 僕を認めなかった! それをなんで今更!」  全てを装着し、異形になりつつあるモノを睨みつける。
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