第27楽章 Mein Vater, der Erlkönig

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「なんのために僕がいるんだ…お前が作った兵器をなんで使わないんだ! 僕がどれほどお前を憎んだって、レニーの、フリーシャの家族であることに変わらないことくらい分かっている! お前みたいな独りよがりの馬鹿がいるから“魔王”が発生してしまうんだ!!」  取り込まれていく実父は何も答えない。  もう答える自我などない。 「…父上…父上…父上…」  ノートヴォルトの横にうずくまるレングラントが、何度も悔しそうに呼んだ。 「アフィ、君の所有権が今私に移った…」 「……」  ノートヴォルトの体に刻まれた所有者の刻印。  それはショスターク家とマエスティン家のもの。  レングラントは既に後継者としてヴァルキンに指名されている。  その所有権は譲渡の意志か、所有者の死によって自動的に移る。  つまり、今この瞬間、取り込まれたヴァルキンの精神は死んだ。  あとは体がマギア・カルマを取り込み続け、ひたすら肥大化した後“魔王”となる。  ヴァルキンだったモノはぶるぶると震え、ぶくぶくと肥大化を開始した。  叫びとも嘆きともわからない声が上がり、耳を塞ぎたくなる。 「レニー・・・今君の父の体を解放してくる…」  ノートヴォルトがアポカリプスを起動する。 「使用者認識…アームズコード:(ノウェム)兵器の子(アルミヌス)・アフィナシオ・ノートヴォルト・ショスターク。深層魔力(イド)(サフィルス)(・デンテ)」  ローブが白く光る。 「死にたくなければ下がるんだ! あれが“魔王”…皆下がれ!」 「グォアアアアアア」  ノートヴォルトが後ろの学生たちに叫ぶと、“魔王”と成り果てたヴァルキンだったモノも叫んだ。 「何をしてる!? 下がれ! 動ける者はいないのか!?」  彼の周囲にいる残された学生、教授、魔術師のいずれもすぐに動く気配がない。  “魔王”に取り込まれるまで大量に沸いていた魔物に対処するため、皆限界まで戦ってしまったのだ。 「アフィ、私が…」 「君は動くな! 幻虹のヴェール(イルジオ・ヴェルム)! さあ防護壁の中に!」  ノートヴォルトがレングラントの周囲に防御壁を張ると、近くでうずくまる魔術師の1人に駆け寄る。そしてすぐさま回復の古典魔術をかける。 「聖母の(ヴィルジニス)抱擁(・アンプレ)! 動ける!?」 「はい・・・」 「全員ここに避難させて。回復できる者は回復して、レニーを守って」  回復させた魔術師が動くのを見届けると同時に、彼は魔力を纏わせた左手を振り払った。  完全に“魔王”と化したヴァルキンが放ったマギア・カルマのエネルギーが、放った本人に跳ね返されるとそのまままた吸収された。 「今相手にしてやる・・・」  救出された学生や教授らが次々と防御壁の中に連れてこられる中、ノートヴォルトは彼らを巻き込んで攻撃してくる“魔王”の気を引く。  保護された学生たちは防御壁の中でぐったりしたまま、音楽教授だったはずのノートヴォルトの戦いを見守るしかなかった。  その中には、あの日図書館前で彼を馬鹿にし攻撃をしかけた学生もいる。そして、ストラヴィス教授も。 「俺たちの知ってる教授じゃない…」 「何が起きてるんだ…」 「彼は・・・彼はまさか、隠された魔術師なのか…“兵器”は実在したのか…」  少し遠くになったノートヴォルトと、もう過去のものだと思っていた“魔王”を見て、学生と教授たちは恐怖と同時に困惑する。  残った魔術師たちもなんとか防御壁の中に集まったが、傷ついた上にもう魔力はほとんど残らず、指一本動かすのも苦痛に思える状態。  最初にノートヴォルトに回復された魔術師も集まった彼らに辛うじて体力回復の魔法だけかけると、荒い呼吸のままへたり込んだ。  下手なことをすれば、“兵器”の邪魔になってしまう。  誰もがもうノートヴォルトの力に頼る他ない状態だった。  ノートヴォルトが飛んでくる“魔王”の攻撃を避けつつ、反撃のチャンスを伺う。  レングラントは防御壁の中、唇を噛みしめた。
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