第27楽章 Mein Vater, der Erlkönig

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「私は結局、お前の片手ほどの力もなかった」  彼は持ち出したアポカリプスを起動した時、地面に引っ張られているのかと思うような強烈な衝撃が体に走った。  強制的に魔力の限界値を引き上げる装備に、彼の体はついて来ることが出来なかったのだ。  結果、魔法を暴走させた。  半分近くの魔物を葬ることができた代わりに、彼は動くことも困難になってしまった。 「だめだっ…クソ…無垢なる(イノセンティア)光よ(・ルクス)」  魔術師だった人間がマギア・カルマに取り込まれた時ほど厄介なものはない。  しかも“魔王”と化し、秘める能力はとてつもなく膨れ上がっている。  人の負の感情の塊のような“魔王”は、放つ攻撃に触れただけでも昏倒しそうなほどの威力がある。  そして普通の人間ならばそのまま飲み込まれてしまう。  倒すには、ひたすら正の感情と同じ力を持つ古典魔術で光の属性を使い続ける他ない。  ノートヴォルトが防御壁を狙って放たれた“魔王”の攻撃を、光る霧のような魔法で相殺した。  防御壁は鉄壁ではない。  数回“魔王”の攻撃を受ければ消えてしまうだろう。  今他に動ける魔術師がいない以上、それは最後の保険だ。 「白の(アルブ・)慈悲(ミセリコルデ)」  守りながら戦うノートヴォルトを助けたくて、レングラントが雨のような光の粒を父だったモノの上に降らせる。  しかしそれは“魔王”の咆哮1つでかき消されてしまった。 「クッ…もう私の魔力ではどうにもならないのか」 「君は戦いすぎた。お願いだから下がってくれ! 白の(アルブ・)慈悲(ミセリコルデ)!」  ノートヴォルトが同じ魔法を使えば効果があり、“魔王”は両手を振り回して振り払うように悶えた。  だが黒い霧を噴出させると、白い雨は消されてしまった。  反撃のために、レングラントを見据えると黒球を吐き出してくる。  全ての光を吸収してしまいそうなそれは、大きな鉛玉のようになって真っすぐレングラントに飛んで来た。 「天使の(アンジェルス)手毬(・ピーラ)! レニー! 誰かレニーを下げて!」  レングラントを庇いながら魔法を放ち黒球を消す。  自らの足で動くことも出来ないのに、それでもレングラントは戦おうとする。  残った多くの魔術師は傷ついた若手。  経験の深い魔術師は、少数で別の魔物対策に出ているか、既にもう動かぬ者となっていた。  言われた通り助けに出たくても、ただでさえ動かない体な上ひしひしと感じる“魔王”の恐怖心でなかなか動き出す者はいない。  その間にも、“魔王”は続けざまに動く。  ノートヴォルトが邪魔で、レングラントに辿り着けないことに苛立ちを感じているように見えた。感情はないはずなのに、元の体に引きずられているのか、なぜかレングラントに執着していた。 「レニーを吸収して僕に対抗しようとしてる…?」  “魔王”は意志を持たないが、自己を本能で守り、強い魔力に惹き寄せられる性質がある。  戦いで消耗したとは言え元々は大きな力を蓄えているレングラントが、吸収するにはちょうど良く見えたのかもしれない。 「早く! 僕が引き付けている! レニーを!」  このままでは止まない攻撃の中誰もレングラントを庇えない。  ノートヴォルトは攻めに転じた。 「白銀(アルジェンティ)の槍(・ハスタ)・リピート!」  指を鳴らし続けざまに3本の槍を放つと、“魔王”がたたらを踏むように下がる。だがすぐに体制を立て直してしまい新たな攻撃を放ってきた。  小さな黒い球体は弾幕のようにノートヴォルトを襲う。  防御壁もこの連続する弾幕に耐えられるかわからない。ノートヴォルトは咄嗟にレングラントと反対側に走った。  僅かに追尾する球体が方向を変え、逃げるノートヴォルトを追尾する。しかし追いつこうとして届かず、その足元を何発も爆発させた。  だが土埃が舞う中、その中の数発が直撃してしまう。  弾幕はなおも続いていた。 「ぐっ…天上の(カエレスティ)加護(・ベネディクタ)」  防御のための白く光る薄い膜が展開されると、残りの球体は黒い霧を残して膜に吸い込まれるように消えた。  残ったエネルギーが黒い霧のように立ち込め、視界を奪う。その間に“魔王”は狙いを定めた。  レングラントに。 「アルブ・みせ・・・っ!? 天使の(アンジェルス)後輪(・ヘイロ)!!」  ノートヴォルトが黒い霧から脱出し反撃に出ようとしたとき、“魔王”の体から黒い蔓のようなものが伸びるのが見えた。  唱えようとしていた呪文を慌てて唱え直し、蔓を切り裂く銀のかまいたちが飛んで行く。 ザシュッ…  だが、肉を切り裂くような音は蔓のものではなかった。  ノートヴォルトのかまいたちが蔓を切り裂いた時、それは防御壁を貫通し、既にレングラントの胸を貫いていた。
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