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「レニー・・・レニー・・・っ? レニィイイ!」
胸から黒い棒を生やしたレングラントは、膝立ちの姿勢のまま数舜揺らぐと、そのままゆっくりと…そこだけ時が遅くなったかのようにゆっくりと倒れた。
「レニー、嘘だ。白の慈悲・フェルマータ! レニー!起きろ! 嫌だ…レニー! 白銀の槍・スフォルツァンド! レニー!」
連続で古典魔術を放ち、しかも独自の強化を付与する。
普通の魔術師ならその場で卒倒しそうなほどの威力を纏めて放ち、それでもノートヴォルトはレングラントに駆け寄った。
彼の纏うローブの色が揺らぎ、赤を通り越しオレンジがかってきた。
急激に力を消費して、下がって来たのが一目瞭然だ。
「レニー、どうして…なんで下がらなかった! いま、いまなおす…聖母の抱擁…頼む、生きてくれ…ヴィルジ…」
「アフィ…父を・・・お前ひとりに託すわけには・・・」
「レニー・・・ごめん…守れなくてごめん…僕はいつも守ってもらうばかりだ…ヴィル…」
「アフィ、もういい…意味がないことは…わかってるだろう…」
回復を促す最上級の魔法は、温かい光をもたらすだけでレングラントに何の変化も起こさなかった。
黒い棒から滴る血は抱き起したノートヴォルトの腕をひたすら濡らし、命の温かさが流れ出ていくのを嫌でも知らしめた。
「もう、こうかはない…死の運命が、きまったものには…」
「しゃべらないで。ヴィルジニス…」
「アフィ。私の後継者はいない。お前はもう自由だ…ショスタークの紋が消えれば、マエスティンの紋も消える…やっと自由に…」
「なんでアポカリプスなんか…」
「少し…くやしかったんだ…同じ父なのに…ずっと上のお前が…。さあ、自由を…」
「そんなものいらないから生きてくれ…」
「ねがわくば、ちちをにくまないで…フリーシャを、たのむ…アフィ、お前のしあわせを…」
そのまま、ノートヴォルトを見ていた濃紺の瞳から光が消えた。
腕の中のレングラントから、命が抜け落ちたのがわかった。
「レニー・・・うっ…僕が学院にいられたのは君のおかげ・・・」
強烈な光の魔法で悶えていた“魔王”が、やっとのことで這い出てくる。
黒い塊だったものは、人型の何かがヘドロにまみれているように見えた。
ドロドロと地面に落ちるように流れ、形を保つのに必死にだ。
「今、君の父も送る…そっちで妹に誠心誠意謝罪させて・・・」
人とも獣とも判断のつかない声を上げて、目の前の流動体がゆっくりとノートヴォルトに向かってくる。
彼を取り込み、元の姿、いやそれ以上のモノになりたくて、両手のようなものを伸ばしてくる。
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