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「僕のナンバリングは9…少なくとも8人はアポカリプスの犠牲になったんだろうね。アフェットだけじゃない。父よ、その全てに、レニーに詫びろ…」
全身全霊を両手に集中し、光の魔力を貯めていく。
装備したアポカリプスが引き起こす魔力増殖は、彼の心拍数を急上昇させ、急激に肉体を破壊しにくる諸刃の剣となった。ローブの色が両手の魔力に反比例するように下がり、緑がかってくる。
それでも膝を着かない。
真っすぐに“魔王”に対峙し、決して瞳を逸らさない。
彼の目に映っているのは、“魔王”ではなく憎んだ父だったのかもしれない。
「父上、おやすみなさいませ……永久に。安息の誘い」
彼は生まれて初めてヴァルキンを父と呼んだ。そしてこれが最後。
そこにどんな思いがあったのか。
自分の中に流れる血に対し、彼がつけた決着。
憎悪で歪んだ彼の魔力の中には、父親と同じ波形の魔力・・・間違いなくショスターク家の“業”が流れているのがわかった。
あのマギア・カルマの半分くらいは、もしかしたら自分の魔力の”残りカス”かもしれない。
光の魔法が使えるのが不思議なほど、汚れた感情。
強い恨みの裏には、「認めて欲しい」という気持ちがあったのではないか。
呪文に呼応し、“魔王”の体が柔らかな光に包まれる。
それが急に目も眩む強さになると、無数の光の棘が貫いた。
殺されたことにも気づかないまま一瞬で死に誘うこの魔法は、光の属性でありながら非常に残酷なものと言えるかもしれない。
目の前の人だったモノは、悶えることもなくそのまま消滅した。
マギア・カルマに取り込まれた生き物は、倒されれば何も残さない。
父だった存在は、跡形もなくこの世界から消え去った。
巨大なマギア・カルマが消えたおかげなのか、あれほど次々発生していた魔物たちはもう沸くことはなかった。
「コールディア…解除…コールディア」
カシャンと音がして両手両足の装備が外れ、ローブの光も消えた。
激しい魔力消費と体力の消耗に、大量に汗を浮かべ膝を着く。
振り返った広場の時計は、もう既に40分経過しようとしていた。
「コールディア!!」
「教授、あと5分で45分経過してしまいますわ!」
「私たちも2周頑張ったけど、もう次は無理かも」
「いい。それ以上すれば君たちにも害が出る…クレド!」
「ひぃっ」
ノートヴォルトの手がクレド公爵の胸倉を掴んだ。
「彼女を解放しろ。兄は死んだ。“魔王”も見ただろう!? お前も後を追うか!」
「だ、だが結界を維持するにはまだ遠い…今はよくてもすぐにヤツらは湧いて来る」
「黙れ…そんなに“燃料”が欲しけりゃ僕をくれてやる。100年以上は持つんじゃないか。ただし僕の魔力は穢れきっている。厚い結界の代償は高くつくぞ」
クレドはノートヴォルトの腕を掴むと、「わ、わかった」と言った。
ポータルの前に立ち、いくつかの手順を踏んで機能を解除していく。
「早く…早く…コールディアが死んじゃうよ…」
ラッピーがフレウティーヌと身を寄せながら呟く。
他の学生もただただ黙って見守り、理解の追い付かないノートヴォルトの戦いを見ていた男子学生も周囲に集まって来た。
ガチャリ
ポータルのロックが外れる音がして、クリスタルのドームが開く。
中の椅子に座るようにして繋がれていたコールディアの身が自由になり、ノートヴォルトが急いで抱え上げた。
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