第27楽章 Mein Vater, der Erlkönig

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「コールディア…目を開けるんだ。コールディア…」  その場に寝かせ、魔力の残量を確認していく。  正確な数値はわからないが、彼には大体の目安がわかった。  それはもう、風前の灯火と言える。 「コールディア、まだ君に応えていない…目を開けてくれ…聞いてくれ…」  まるで失血でもしたかのように真っ白になった彼女は、微動だにしない。  呼吸もしているのかわからないほど浅く、脈拍は弱い。 「コールディア、今助けるから…あと少しだけ頑張って」  そしてノートヴォルトは立ち上がると、周囲の学生に言った。 「誰か。魔法陣用のチョークを持ってない…なけりゃなんでもいい、描けるものを」  後ろの方で成り行きを見ていた魔術師学科の男子学生が、「持ってます!」と言って彼に差し出した。  ノートヴォルトが「下がって」と言うと空間が広がり、地面に大急ぎで魔法陣が描かれる。  どんな地面でも関係なく陣を描くことができる専用のチョークは、あっという間に学生が見たこともない複雑な魔法陣を完成させた。  だが魔術師学科の教授ともなれば知っている。 「これは…魂の禁呪?」 「禁忌でもなんでも犯してやる。僕は彼女を助ける」  精神の死を待つコールディアをその円陣の中央に横たえると、爪先に魔力を流しナイフのような切れ味にする。  そして自分の手のひらを切りつけると、コールディアの手にも同じことをした。   血の流れる互いの手を繋ぎ、儀式が始まる。 「我は魂の儀式を行う者。魔力を失い死を待つ者に再び命を取り戻す者。血によって魂は結び付き、我の魂は彼の者に共有される。魂の契約、すなわち我の魔力は死によって終わりを迎えるまで彼の者、コールディア・カデンツァに分け与えられる。アルミヌス・アフィナシオ・ノートヴォルト・ショスタークの名の元、今この瞬間を以って契約は効力を発揮する。契約締結(フィルマントゥル)」  魔法陣が光りを帯びる。  血のように赤黒い光を発した後、ノートヴォルトが手を繋いだままその場に崩れた。 「教授っ!」  学生たちが見守る中、ノートヴォルトは薄れる意識でただコールディアだけを見つめていた。 「コールディア…生きて…僕は君が好きなんだ。声だけじゃない、全部…こんな僕を丸ごと受け入れてくれた君が好きなんだ…もっと早くに言えばよかった」  少しだけ彼女に血色が戻ったような気がする。  それと反比例するように、ノートヴォルトは青くなっていった。  彼女に言葉を届けたくても、その声も掠れてしまう。  それでも彼は囁くほどの声で続ける。 「コールディア、聞こえる? 僕は自分に流れる父の血が憎くて、怖かった…でもこれは僕の一部なんだ…父が死んだって消えるものではない。…でもね、そんなことどうでもよくなるくらい君が愛しくなってしまった…」  動きの悪い体で這い、少しでもコールディアに近づく。 「コールディア、起きて…ちゃんと好きって言わせて…コールディア…………」 キンッ キンッ キンッ キンッ キンッ  いつの間にか5個も壊れていたらしい結界が戻る音がした。  学生が見守る魔法陣の真ん中には、傷ついた魔術師と、彼に命を捧げようとした少女が寄り添うように横たわっていた。  未だ目覚めぬコールディアと、意識を失ってしまったノートヴォルト。  だが彼は暗がりに意識が落ちる寸前、その手がほんの少しだけ握り返されたことに気づいていた。
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