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かずきおじちゃんは徐に顔を上げた。そこには疑問と驚きが入り混じった表情があった。
「本当に?」
「うん、本当に本当! 本当に謝ってほしいのは、あのクソ親父の方だから。あんなしょうもないことベラベラ言って、私のプライドズタズタにしたバカの方が悪いから。だ、だから、かずきおじちゃんが謝ることなんてないんだよ」
これまでの人生史上、演技の経験なんてゼロだ。だが、ここまでの弁明をすれば多少なりとも相手を安心させられるだろう。
その相手というのは、かずきおじちゃんだ。幼い頃から美優の言動を知っている人だ。長年、彼と対面しなかったのが仇となったらしい。かずきおじちゃんはますます曇った顔で美優を見つめた。
「美優ちゃん、本当にそう思ってる? さっきから全然、すっきりしてねぇ顔だな?」
美優はかずきおじちゃんの視線から目を逸らした。顔が熱くて火を吹きそうだ。その前に心臓が爆散してしまう。胸がキリキリと痛んで、涙が出そうだ。
「俺は嫌だよ、美優ちゃんがそんな顔するの」かずきおじちゃんが美優を見据えたまま、静かに言った。「美優ちゃん、もっと素直になりな。昔みたいにさ、我儘言ったっていいんだ」
かずきおじちゃんが美優の右肩にそっと手を置いた。
が、美優はその手を咄嗟に強く払った。
かずきおじちゃんの息を呑む声だけが聞こえた。美優自身も、何故こんな行動を取ったのかよくわからなかった。
今、よくわかるのはかずきおじちゃんに対する憎悪と自己嫌悪だけ。
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