色褪せた指輪

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 ビクッとして振り返ると、かずきおじちゃんが大きく手を振りながら駆け寄ってきた。今まで美優単体だった空間に他人の存在が侵入したことで、不快にも羞恥にも似た感情が込み上げる。 「ちょっ、かずきおじちゃん、な、なんで?」  かずきおじちゃんは、美優が驚き慌てる理由を知らない。だから、何にも疑う様子を見せず無邪気に言うのだ。 「夜の女の独り歩きは危なっかしいだろ? 積もる話もあるだろうから、一緒に散歩がてら語り合おうかと思ってな」  余計なお世話だ。美優は顔が熱くなるのを感じた。  かずきおじちゃんと二人っきりになれたのだ。そこは喜ぶべきだろうに、無性に腹立たしくてしょうがない。  そもそも雪乃は夫が他の女と夜の散歩に行くと聞いて、疑問に感じなかったのだろうか。もしそうだとすれば、雪乃はそれほど夫を信頼しているのだろう。いや、美優を浮気相手になるほどの女性として見ていないのかもしれない。どちらにしろ、悔しい。  美優が何も言わないのを見て、かずきおじちゃんは酒が入った赤ら顔で心配する。 「美優ちゃん、どうした? さっきから膨れちゃってるけど?」  気付けば、すぐ横にかずきおじちゃんの濁りなき双眸があって心臓が瞬時に飛び跳ねる。 「え、えと、な、なんでもないよ……!」  美優は視線を前に向けたまま、引き攣った笑顔を見せた。美優が他人に言いたくないことがある時は、大抵この言葉を口にする。それをかずきおじちゃんは知っていた。
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