色褪せた指輪

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 美優が5歳だった頃、かずきおじちゃんはまだ独身だった。癖が強く目を隠すぐらいに伸び切った髪が印象的な人だった。長身でスラリとしているのに、体付きは立派だった。  かずきおじちゃんは、父の高校時代からの友人だった。父や母が仕事で忙しい時は、代わりに美優を幼稚園まで迎えに来てくれた。幼稚園の門の近くでかずきおじちゃんの姿が見えた時は、喜んで走っていったのを覚えている。  幼稚園からの帰り道は、そのがっしりした腕によくぶら下がった。子供ながら、その腕の太さと硬さに肉体の強靭さを感じた。  かずきおじちゃんは美優に腕にぶら下がるのをせがまれる度に文句を垂れていた。それでも笑って美優の我儘に付き合ってくれた。  いつも周りに見せているクールな印象からは想像もできない、向日葵のように暖かい笑顔を見せた。これは、美優だけが知っている顔だった。  父には申し訳ないが、かずきおじちゃんこそ本当の父親のように見えた。  それが、いつ頃からだろう。確か、美優が小学校に上がってからずっと後だった。  憧れのかずきおじちゃんに恋心を抱き始めたのは。
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