色褪せた指輪

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 バーが開くと、美優は踏切を猛ダッシュで突っ切り学校まで走っていった。それまで美優の横を通り過ぎる景色など、見えはしない。踏切の向こう側で見つけた、親子の姿でさえもだ。  美優が教室に到着したと同時に、始業のチャイムが鳴った。 「ギリギリセーフっ」  そう思うと自然に力が抜けて、その場に座り込んでしまいそうだ。  同級生たちが始業ギリギリで教室に到着した美優を、拍手したり歓声を上げたりして賞賛した。美優はそれに応えて、皆に手を振ってやる。  美優が着席すると同時に、1時限目の担当が教室のドアを開いて小走りでやってきた。生活指導の先生とは違って大人しく、腰の低い先生である。  先生が教科書を開くと、授業が始まった。皆一斉に教科書を開き、真面目に読む振りをする。教科書に落書きする学生もいれば、教科書に目もくれずそのまま居眠りする学生もいる。  美優の場合は、先生の話を聞かずに窓の外を眺めた。そこには数本の桜の木が見える。今は冬のせいか、すでに葉は一つも残っていない。あるのは2枚の枯葉だけだ。木枯らしに吹かれながらも、ただ枝に残っている。  かずきおじちゃん、結婚したんだなぁ。  美優はぼんやりとそう思った。
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