急患

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急患

「ぅぅう……」  七紬が栗山蘭学所から帰ってくると、家の門前で女性が (うずくま)り、唸っているのが見えた。  七紬は女性に駆け寄り、声をかけた。 「もし、もし。いかがしましたか? 声が分かりますか?」  七紬の問いかけに女性が額に脂汗を浮かべながら頷く。 「立ち上がれますか? 歩けますか?」  七紬が女性を支えながら家に入る。診療所に女性を寝かせると手早く帯を緩める。  そして調合した薬湯を女性に飲ませ、優しく声を掛けながら、女性を寝かせた。  しばらくすると薬湯が効いたのか、女性が寝息を立て始めた。  そこへ源蔵と義臣が往診から帰ってきた。  七紬から話を聞き、女性の様子を診に行くと、女性の頬には赤みがさし、静かな寝息を立てている。 「見立ては正しかったようだな、よくやったぞ、七紬」  源蔵に褒められ、七紬が嬉しそうに微笑む。 「余程お疲れのようですね」  七紬たちが小声で話していると、女性が目を覚ました。 「あぁ、申し訳ございませぬ。ご迷惑をおかけしました」  慌てて起き上がろうとする女性に、七紬が優しく声をかけた。 「そのままで大丈夫ですよ。痛みは治まりましたか?」 「えぇ、えぇ。貴女のおかげです。本当に助かりました」  七紬は丸薬を紙に包んだ。 「もしも、先程のように痛みが来たら、このお薬を二粒飲んで下さいね。痛みを取ることができます」  優しく話す七紬の腕に、女性がすがりついた。 「あなたにお願いがあります。どうか、どうか、妓楼に来てはいただけませんか? 診ていただきたい方がいるのです」  女性が布団から起き上がり、七紬に頭を下げる。  七紬は困って、父の源蔵と兄の義臣を見た。 「あの……私よりも父と兄の方がきちんとした医師で……」 「いえ、お願いします。あなたなら。どうか、お願いします。あなたに、診ていただきたいんです」  必死で頭を下げる女性に、源蔵が声をかけた。 「まずは、事情を教えて貰えまいかね?」  うっすらと涙を浮かべて女性が、ポツリ、ポツリと話し始めた。 「私は三浦屋の都久(とく)と申します」
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