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①
(※これは人間と獣人が混在して暮らす世界線でのお話です)
突然だけど、おれ弥勒。都内のFラン大一年生の19歳で、獣種はフェネック。
ついさっき、代理バイトが入ったからってデートを断ってきたかれぴの大翔(獣種・アラスカンマラミュート)のマンションに来たら、知らない男とおせっせしてるのを目撃してしまったとこ。
よって、現在ヤキ入れ真っ最中。どんな風にヤキを入れてるかってゆーと、浮気現場になった大翔の部屋の2人掛けソファにおれだけが座って、足先から1メートル離れた辺りに大翔と浮気相手を正座させて、手始めに来る時コンビニで買って来て冷蔵庫に入れといたコーラを再び出して、思いっきりシェイクした後ぶっかけたった。まあこれ、おれも無傷じゃ済まないんだけど!
「ふざけんな!つき合って半年で浮気とか!」
「いや違うって!それは…」
「言い訳は聞きたくない!!」
おれが耳と鼻を盛大にピクピクさせながら怒鳴ると、コーラ塗れでベタベタ濡れ鼠(犬だけど)になった大翔は一瞬、ビックリしたみたいに黙った。それから、小さい声でボソボソとまた言い訳続行。
「本当に、違うんだ。これは浮気とかじゃなくて…」
「チンコをケツに突っ込んどいて違うもクソもあるか!大体、何だよソイツ!」
言いながら、びっ!!とおれから見て大翔の右側に正座してる白っぽい金髪の男を指差すと、バチッと目が合った。コイツ、浮気相手のくせに悪びれもせずおれを見てたのか。全く反省が感じられない。なんてふてぶてしいヤツなんだ。よし、お前の呼び名はこれから白頭とする!と睨みつけるおれ。ついでだからジックリ観察してやる。
(こ、コイツ…悔しいけど、めちゃくちゃイケメン…)
そうなんだ。浮気相手のこの男、実はオドロキの美形だった。奇抜な髪色なのに、それに違和感を感じない彫りの深い目鼻立ち。今は座らせてるけど、さっき立ったのを見た時は、スラッとしてスタイル良かった。背は大翔より少し低いくらい。どう見たっておれとは真逆。
話が違うじゃん。大翔、お前、守ってあげたくなる小柄華奢童顔タイプが好きって言ってたじゃん。腕の中にすっぽり収まるのが良いんだって、昨日だってそう言って笑ってたじゃん。
腹が立って、ジワッと目頭が熱くなってくる。目から何か出そう。でも意地で堪えながら大翔に視線を戻して言ったった。
「お前って、平気で嘘つけるヤツなんだな」
「う、嘘って…」
大翔はビクッと肩を揺らして泣きそうな顔になる。なんでお前が。泣きたいのはおれの方なんだが!?
「会ったその日から『めちゃくちゃどストライク』とか言って口説いてきたくせに、嘘じゃん!おれはお前なんか全然好きじゃなかったけど、お前が好きだ好きだってしつこいから付き合ってやったんだぞ!なのになんだよそいつ!結局おれみたいなチビより、そーゆーのが好きなんじゃん!大嘘つき!!」
「嘘じゃないし!僕は弥勒が過去イチタイプだし!大好きだし!!」
「じゃあ大翔は、タイプじゃなくてもセックスできるんだ?俺とはキスしかしない癖に!」
「そ、それは…」
自分で言っててメンタルにダメージが来るけど、実際そうだった。この半年で、おれは大翔にキスしかされてない。それってチビでガキっぽいおれじゃ、その気にならなかったって事じゃん。
…はっ!もはやその白頭が本命では?おれのが浮気相手だったりして…。
俯いて、膝の上に置いた拳を固く握りしめたところで、大翔がまた口を開いた。
「ごめん、それはマジでごめん!でも嘘ってか、言わなかっただけって言うか!気の迷いだったんだ、何度も誘われて…」
肩を落としながらボソボソと言って、上目遣い。耳がヘタってるからっておれは騙されない。アラスカンマラミュートだけど元々垂れ耳のコイツの耳は、365日ずっと寝てるからだ。それにしても…謝ってるわりにはコイツ、なんだか相手の所為にしようとしてない?
「へえ~…大翔って、何度も誘われたら浮気するんだ?」
揚げ足を取ってそう質問してやると、大翔のバカの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「浮気のつもりなんか無かった!セフレで良いって言われて、セフレなら体の関係だけで気持ちが浮ついてなければ浮気じゃないって言われて…」
「……は?」
――セフレなら浮気じゃない?
聞いててドン引きが止まらない。
おれ、こんな節操無しのバカと付き合ってたのかぁ…と思ったら、決壊しそうになってた涙がスウッと引っ込んだ。
つか、言わなかっただけで嘘ついてないってどーゆー理屈だよ。大翔ってこんな奴だったのか。半年程度のつき合いだと、まだまだ人となりってわかんないもんなんだな。自分の見る目の無さにちょっと落ち込む。
「…大翔、それって…本気で言ってる?」
「それ?」
「体の関係だけなら浮気じゃないってやつ」
「…だって、そう言われたから…」
ゴニョゴニョと歯切れの悪い言い訳をしながら、横の浮気相手をチラチラ見る大翔。え、もしかしてその白頭にそう言われたからそれを真に受けたってこと?やっぱり白頭が悪いから自分は被害者っていう主張?
おれが大翔に呆れながら白頭を見ると、白頭もおれの顔を見ながら、ニヤッと笑った。ムッカー。挑戦的なヤツめ。
「超キモい」
自分の声じゃないみたいな、冷たい声が出た。固まる大翔と、ニヤニヤ笑いをスッと引っ込めて無表情になる白頭。
「人が言うからそうなんだって思うなら、ソイツ以外にもセフレが居るって事?」
おれがそう聞くと、大翔は凄い勢いでブンブン首を振った。
「まさか!まだコイツだけだし!」
「…まだ?って事は、これから作る気だったんだ?」
「いや、ちがっ…言葉のあやだって」
疑惑の眼差しを向けるおれに、青ざめた顔でさっきより激しく首を振る大翔を見ながら、おれは自分の気持ちがどんどん冷めていくのがわかった。
しんとする室内。
「あのさ」
沈黙を破ったのは、今まで一声も発しなかった白頭だった。大翔とはまた違う、澄んだ低音。
「…何だよ」
おれがそう返すと、白頭はおれと目を合わせて、フッと笑った。
うわムカつく。超ムカつく。イケメンなのがまた輪を掛けてムカつく。余裕か?余裕の笑みか?自分が本命だっていう余裕の笑みか!!
しかしこの白頭の前でこれ以上取り乱すところをみせるのはおれのプライドが許さない。
でも、腹立つ~~~!!!
睨みつけるのが精一杯のおれに、白頭は右側の口角を引き上げながら言った。
「結局、どうするの?別れるの?」
大翔が弾かれたように白頭を睨みつけるのを見ながら、おれは口を開いた。
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