お久しぶりですゲーム

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「なあ、お久しぶりですゲームやろうぜ!」 部活終わりの帰り道。六人で帰宅中。突然、誰かがそんなことを言いだした。 俺は面倒くさいな、と思い、存在感を消す。 だが、逆にそれが仇となった。 「お前、何、存在感消してんだよ。この間も、やらなかったじゃねぇか。お前だけずるいぞ!」 五人の目が一切に俺に注がれる。言い逃れをしようとすれば、ノリが悪い奴になる。部活や学校生活に悪い影響を及ぼしかねない。 内心で嘆息を漏らしながら、俺はしぶしぶ承諾した。 「お久しぶりですゲーム」というのは、まさに高校生が考えそうなろくでもないゲームだ。簡単にいうと、街を行く人に「お久しぶりです」と声をかけるゲームだ。 「お久しぶりです」と言われれば、一瞬、知り合いに声をかけられたと思い、足が止まる。そこから知り合いのフリをして会話をどれだけできるかを競い合うしょうもないゲームだ。 ちなみに、ルール上、何分間知り合いのフリをできるかで、罰があったりする。今回は五分以上知り合いのフリができなければ、挑戦した側、つまり俺が全員にジュースを振舞わなければならない。逆に五分以上であれば、俺がジュースを振舞ってもらえる。最も他の五人は俺へのおごりを五等分できるので、懐へのダメージは少ない。 「さて、どうするかな」 ゲームが始まってしまった以上、俺はこのゲームに勝つ必要があった。理由は金欠だ。この間、部活で使う道具を新調してしまい、ジュースを振舞える程のお金を持っていなかった。 俺は駅前広場で声をかけやすく、かつ会話が続きそうな人を物色する。この人探しの時間にもタイムリミットがあり、十分以内に声をかけないといけない。 駅前広場にはたくさんの人がいたが、めぼしい人はなかなか見つからなかった。みんな忙しそうだ。一分、二分、三分と時間が刻々と過ぎていく。 八分が経過した頃、俺はついに動き出した。ターゲットを駅前広場のベンチに座っている男子高校生に決めた。俺はほっと胸をなでおろした。まあ、俺の知り合いだ。 このゲームの必勝法は、知っている人を見つけて、適当に話を合わせてもらうことだ。 しかし、勝てると確信したことが間違いだった。ゲームのことで頭がいっぱいだった俺はミスを犯した。人とぶつかってしまったのだ。 「す、すいません!」 慌てて相手に謝罪の言葉を口にする。尻餅を着いた女性はスーツ姿で、ゆるふわな茶髪を後ろで一つに結わいていた。年齢は三十代前半、といったところだろうか。 「こちらこそ、すいません。急いでい……」 そこで突如として言葉が途切れた。そして、俺を見て目を瞠った。 「大丈夫ですか?」 俺は手を差し出す。女性は俯き何かをつぶやくと、その手を使わず、一人、立ち上がった。 その時、俺の視界の端に、仲間たちの姿が見えた。こちらに向かってこようとしている。時間切れを言いに来ようとしているのだ。 俺に選択肢はなかった。この女性に対してゲームを仕掛けるしかない! 「あの……お久しぶりです」 俺の言葉にその女性は、驚愕の表情を見せてきた。絶望と希望が入り混じった複雑すぎる表情。奇妙なことに両極端のものが、一緒になって表情を作り上げていた。 「……お久しぶり、です」 女性も同じ言葉を返してきた。まさか俺たちと同じゲームをしているはずがない。だとすれば、俺はこの女性とどこかで会ったことがあるのか? いや、さっき見た顔は初めて見る顔だった。三十代ぐらいの知り合いなんて、学校の先生以外にいないし。 多分、人違いだろう。でも、好都合だ。これなら会話が続くはずだ! しかし、会話はそこでぷっつりと途切れてしまった。 それなのに、女性はこの場から動こうとしなかった。俺の方をちらちらと見るものの、何も言ってこない。 しばらくの沈黙の後で、その女性は恐る恐る言った。 「……少し、あそこのカフェで話しませんか?」 「……はい」 思わぬ展開になったが、俺が声をかけた以上、拒否するという選択肢はなかった。
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