霊感なき男

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霊感なき男

S男は霊感がなかった 幽霊なぞ荒唐無稽の妄想で、存在するはずがないと豪語していた。 そんなS男を見て、悪友たちは肝試しに連れていくことにした。 深夜、近隣では「出る」と有名な墓場にS男を連れだって悪友たちはやってきた。 ひんやりとして、耳が痛くなるほどの静寂。 暗闇が広がり、不気味極まりなかった。 S男はそれでも強がって、「出るなら出て見ろ」「ばかばかしい、信じるやつもどうかしてる」と散々悪態をついた。 さらには、S男は墓の上に登って、小躍りしながら幽霊や霊魂をくさすような悪口を言った。 普段なら悪ノリして、小悪党のような笑い声を響かせる悪友も、とても笑える気分にはなれず沈黙していた。 おそらく、墓場の雰囲気に圧倒されたのだろう。 「ちぇっ、しけるなあ。帰ろうぜ。やぶ蚊が出る」 S男は反応の薄い友人に白けた。一同は帰ることにした。 墓場から下る坂道を降りる。 細い道で住宅街だった。 ふと、S男が横のブロック塀を見た時だった。 ブロック塀のすぐ向こうに顔が見えた。 暗がりから憤怒の表情をした老人が、S男を睨みつけていた。 その顔は暗い中でも、青白く生気がないのが分かった。 S男は悲鳴をあげた。 尻もちをついて、再度見上げると、老人の姿はなかった。 悪友たちは、s男の話を聞いてブロック塀の方を見るが、何もいない。 人が住んでいなさそうな古い家があるだけだった。 後に判明したところによると、S男が小躍りした墓の持ち主は「顔」が出てきた家の主だったそうだ。 独居で、誤って食事をのどに詰まらせなくなった老人だったそうだ。 S男は、最後の悲鳴と尻もちで面目丸つぶれだったが、それ以来幽霊や霊魂、神仏などオカルトじみたものを侮ったりするのはやめたそうだ。 【おわり】
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