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騒々しい親子を見送ったあと、
「もう行きましたよ」
ディレクターが言った。
「まさかこんなに上手くいくとは」
身を起こして目を丸くする俺にディレクターはニヤリとした。
「大成功ですね。陰口のシーンもバッチリ撮れましたよ」
白い猫が膝の上にのってきて丸くなる。
「最初からもしやとは思ってたんだ。君だろ? 福引券を俺のコートのポケットにいれたのは」
「そこから気づかれてましたか。わざとらしくぶつかり過ぎましたかね」
「状況を理解したのはあのメニュー表を見た時だ。久しぶりに会っかたと思えば二人して何たる仕打ち、と腹が立ったよ。しかし『逆に騙してやれ』という指示には緊張して目眩がした。確かに筆記体なら妻にバレる心配もない。お見事だ」
「僕も慣れないハッピを着たりバーテンダーをやったかいがありました。それより大丈夫なんですか?」
覗き込んでくるディレクターを見返す。
「何が?」
「色々と言われたい放題だったじゃないですか」
「別に構わんよ。それより今はオンエアの日が待ち遠しくて仕方がないんだ」
俺は抑えきれない笑みをこぼした。
「こんなに胸踊るのは久しぶりだよ」
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