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そんな話しはどーでも良いのよ!アンタ伊丹空港であたしと約束した事、そのおバカな頭から綺麗さっぱり抜け落ちてるんじゃないでしょうね?
ある月の夜のカフェ美宙の縁側
左にいつも通り冴香ちゃんが、右にあたし伊藤千秋が陣取って、真ん中に二人の共通の恋人、伊達描を詰めていた
「あ、奥さんとのこと聞きたがったのは、秋ちゃんだったと思うんだけど…」
ネコ越しに冴香ちゃんの控え目な言葉が、夜風に乗って聞こえて来る
あら、そうだったかしら?うーん、もしかしたらそうだったかもしれないけど…
その奥さんとの話の最後に結婚指輪の件が出て来て、不意に思い出してしまったのだ!
こいつの方から指輪の話しをあたしに振って来た事を!
「…秋ちゃんの事だからそんなカビの生えたような古い約束、忘れちゃってると思いましたよ~?」
こ、こいつ…自分から言い出しておいて…よくそんな言葉が出て来たもんだな、おい!
で、指輪はあるのか、ないのか、どっちなんだ!返答と次第によってはトモチに頼んで婚約不履行で民事で訴えてやるんだからな、覚悟しろよ!
…いけないいけない…ネコが相手だとつい地が出てしまう…
現に冴香ちゃんが若干引いているような…彼女の前ではお淑やかなお姉さんな秋ちゃんでいないと!
「ちょっとだけ待っててくださいね…あ、冴香さんも秋ちゃんもお二人ともですよ?」
あたし達が今いる縁側に一番近いネコの部屋から何やらゴソゴソ音がし始める…
時々「あれ?ここに仕舞ったはずなんだけどな…」などと聞こえては来るが…本当に探してるんだろうか…
「確かこの前の銀の弾丸騒ぎの時に見掛けたんだけどな…」
をい、仮にあったとして、まさか鉛の弾丸と一緒に保管してるんじゃないだろうな?
「あ、あった!ありましたよ!」
南国の静かな夜に相応しくない、ネコの歓喜の声が聞こえてきた
え、本当にあったの?このバカネコの事だから綺麗さっぱり忘れてやがると思ってたのに
「あ、じゃあ私はちょっと席を…」
冴香ちゃんが何かツラそうな顔で腰を浮かせかけている
「あ!ダメです!冴香さんも居てくれないと!」
…あのさ、元婚約者同士が指輪のやり取りをするのを今カノが平常心で見られるわけがないだろうが、このバカネコは本当に女心の機微に疎い!つーか、わからなすぎる!
「え…私、証人か何かですか?それはちょっと…」
そーだそーだ!冴香ちゃんの気持ちも考えてみろ、このバカ!
「…あの、お二人とも何か勘違いされてるようなのではっきりと申し上げますが、指輪は三人分あるから、冴香さんも居てくれないと困るんですが」
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